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千一夜
第6章 第二夜 パヴァーヌ ②
私だけリビングルームに入ることが許されなかった。今私の味方はリビングの中の大嫌いな父だけ。父は主人のことが好きではない。主人がいないときいつも「勉強しかできないやつ」と罵ってきた。そんな父が私は嫌いでたまらなかったけど、今だけは違う。今頼れるのは父しかいない。もっともそんな私の気持ちを父は知らないはずだけど。
主人は姉と結婚するつもりだ。私はそれを認めない。絶対に認められない。
私はリビングの外から中の様子を伺った。最初は何も聞こえなかった。静寂は数分続いた。まさか父は主人と姉の結婚を認めたのだろうか。私は不安になった。が、私の不安は父の怒鳴り声できれいに消えた。
「お前のようなどこの馬の骨かもわからんやつに大切な娘をやれるか!帰れ!二度と私の目の前に現れるな!」
私はリビングの外で小さくガッツポーズをした。やはり父は主人のことが嫌いなのだ。父の勝ち、主人と姉の負け。私は嬉しかった。
ところが帰れと言われた主人がなかなかリビングから出てこない。おかしい、何かが変だ。そしてリビングからは何も聞こえてこなくなった。物音ひとつ私の耳に届かない。
まずい、と思った。こういうときの我が家のパターン。それは母だ。ワンマンな父を唯一なだめることができるのは母しかいない。つまり母は姉の側につく。
私の予想が当たった。母の声が聞こえてきたのだ。声は聞こえる。それは確かに母の声だ。でも母が何を言っているのかはわからない。いや、何を言っているのかわからなくても。母が何を言っているのかは推測できる。
母が父と同調するはずなどない。母は姉と主人のためにこの場を乗り切ろうとしているはずだ。母は父の仕事について何か言うことなど一度もなかった。ところがそれ以外のことになると母は正々堂々と父と対峙する(だから主人が私の家庭教師になれたのだ)。そういう母の姿に胸のすく思いをしたが、今はそうではない。私は父が母に言い返すことをひたすら願った。
残念ながら母の声は聞こえたが、父の声は聞こえてこなかった。
父は負けたのだろうか? 父は姉の結婚を認めたのだろうか?
不安で私は身動きできなくなった。そのときだったリビングのドアが開いた。
主人は姉と結婚するつもりだ。私はそれを認めない。絶対に認められない。
私はリビングの外から中の様子を伺った。最初は何も聞こえなかった。静寂は数分続いた。まさか父は主人と姉の結婚を認めたのだろうか。私は不安になった。が、私の不安は父の怒鳴り声できれいに消えた。
「お前のようなどこの馬の骨かもわからんやつに大切な娘をやれるか!帰れ!二度と私の目の前に現れるな!」
私はリビングの外で小さくガッツポーズをした。やはり父は主人のことが嫌いなのだ。父の勝ち、主人と姉の負け。私は嬉しかった。
ところが帰れと言われた主人がなかなかリビングから出てこない。おかしい、何かが変だ。そしてリビングからは何も聞こえてこなくなった。物音ひとつ私の耳に届かない。
まずい、と思った。こういうときの我が家のパターン。それは母だ。ワンマンな父を唯一なだめることができるのは母しかいない。つまり母は姉の側につく。
私の予想が当たった。母の声が聞こえてきたのだ。声は聞こえる。それは確かに母の声だ。でも母が何を言っているのかはわからない。いや、何を言っているのかわからなくても。母が何を言っているのかは推測できる。
母が父と同調するはずなどない。母は姉と主人のためにこの場を乗り切ろうとしているはずだ。母は父の仕事について何か言うことなど一度もなかった。ところがそれ以外のことになると母は正々堂々と父と対峙する(だから主人が私の家庭教師になれたのだ)。そういう母の姿に胸のすく思いをしたが、今はそうではない。私は父が母に言い返すことをひたすら願った。
残念ながら母の声は聞こえたが、父の声は聞こえてこなかった。
父は負けたのだろうか? 父は姉の結婚を認めたのだろうか?
不安で私は身動きできなくなった。そのときだったリビングのドアが開いた。