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千一夜
第49章 第七夜 訪問者 妖の灯
 私は女の命令に従う。何も言わないと私は決めたのだ。そうすれば嵐は過ぎ去ってくれる。嵐の後には、朝の光が私と咲子に差し込んでくる。私はそう信じる。
 突然女が消えた。消えた……というのは正しい言い方ではないのかもしれない。
 宿の天井は見える。目を横に向ければ咲子を確認することもできるだろう。だが、視線の届かない方向が一つだけある。
「うっっ」
 思わず声が出てしまった。自分で言うのも何だが、間の抜けたみっともない声(よがり声?)。私のペニスがいきなり何かの温かさに包まれたのだ。何かの温かさ……間違いない、私のペニスが女の口に含まれた。
 おかしな台詞だが、私はほっとした。「止めろ」と叫ぶ必要がもうない。そして自分の中にいる獣は「もっと気持ちよくしてくれ」と喚いている。良心と悪心(あくしん)の間に私はぴたりと挟まれている。ときに良心に手を引かれ、ときに悪心に甘く囁かれ、そのバランスをうまく保つために、私はやじろべえになっている。
 女の舌が動き始める。亀頭を舐めまわし、女の舌が私のペニスに絡みつく。強く締め上げたり、獲物を狙っている蛇のようにヌルヌルと私のペニスを這う。
「気持ちいいでしょ?」
 突然女の声がした。
「……」
 もちろん私は無言を貫く(自分を誤魔化す最善の策だ)。
「やっぱり亮ちゃんは正直な人」
「……」
 女が言った正直の意味がわからない。そして不思議な感覚に包まれる。私のペニスは女の口に含まれて舐めまわされてる。同時に女が私に話しかけている。そんなこと現実では絶対にあり得ない。
 ただ……もし、もしここに女が二人いたならそれは可能だ。一人が私のペニスをしゃぶって、もう一人が私に話す。
 私はどきりとした。まさか咲子が……。私は目だけを動かして私の隣で寝ている咲子を確認した。ほっとした。咲子は私の方に体を向けて眠りの世界で休んでいる。
 おそらく私は、現実と非現実の境目にいる。
「亮ちゃんのおちんちん、もうビンビン。亮ちゃんのおちんちんだけは正直なのね」
「……」
「亮ちゃんの隣で寝ているクソ女に教えてあげようかな……ふふふ」
「止めろ!」
「止めろじゃなくて止めてくださいでしょ」
「……止めてください」
 後ろめたさと屈辱感に私は覆われた。
 貝のように口をピタリと閉じておくことができなかった。私はもう私ではないのかもしれない。
 
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