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千一夜
第51章 第七夜 マスカレード
「長谷川君、この曲はね、ビリージョエルがハーモニカを吹かないと完成しないんだよ。ピアノとボーカルだけではしっくりこないんだ。彼は計算したんじゃない。彼にはどうしてもハーモニカが必要だったんだ。ハーモニカホルダーを首にかけてハーモニカを吹く、そしてピアノも弾くんだ。どうだい? 場末感があってさ、哀愁が滲んでいるだろ。音楽の世界で成功した彼にも不遇の時代はあった。彼にはそんな時間も大切だったんだよ。そして彼は悟ったんだ。長谷川君、彼は何を悟ったと思う?」
「……」
「生きている喜びだよ。どんな場所にも人にはそれぞれの人生がある。そりゃ愚痴をこぼす日だってあるさ。自慢したいこと、誰かに聞いて欲しい悩み、一人では乗り越えられない悲しみ。すべての人間はそう言う厄介なものを抱えているんだ。当たり前だよな、最初から成功している人間なんていないもんな。もしかしたら順風満帆な人生はおそろしく退屈なものなのかもしれない。まぁ僕にはそういう時間なんて一秒もなかったけどね。迷路のような道を彷徨って、ピンボールにはじかれながら人は必死に生きていく。笑う奴なんていないよ。人生を楽しんでいる人間を誰が笑うんだい。だから長谷川君も必死に生きて、生きている喜びを感じるんだ。でないとつまんないぞ。これは全世界に向けたビリージョエルの応援歌だよ」
「……」
 何か話さなければいけいないと思ったが、私にそんな余裕なんてなかった。涙がこぼれるのを必死に堪えた。残された時間を知っている人間の言葉を私は待った。
「長谷川君、人生は長い。でもな、そんな長い人生を短いと感じるときがある。いつだと思う?」
「わかりません」
 私は頬に温かいものを感じた。
「あとどのくらい生きることが出来るのか、その時間を宣告されたときだ。断っておくが、僕は死ぬのが怖いわけではない。ああ、だめだだめだ、長谷川君には本当のことを言わなければいけない。死ぬのが怖くない人間なんていないよ。死ぬのが怖くないなんて僕の強がりさ。でも今日長谷川君に会えた。ありがとうな」
「……」
 四人部屋の病室に私の泣き声が響く。
「長谷川君、僕はまだ死んでないぞ。泣くのは僕の葬式のときに泣いてくれ。“Piano Man”の歌詞もメロディーも僕は完璧に記憶した。だからこのラジカセとカセットテープを長谷川君にあげる。貰ってくれ、僕の形見だ」
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