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千一夜
第52章 第七夜 本当の顔
角館駅発十一時四十二分のこまちに乗れば、秋田には十二時三十分に到着する。
遠海舞に「すみません。約束をいただきましたが、帰らなければならなくなりました」と一本詫びの電話を入れれば、今日と明日は咲子と新婚旅行の続きができる。
だがそういうわけにはいかない。私と咲子は沢田絵里を追って秋田まで来た。角館でわかったことは沢田絵里に似ている女は江村都子だと言うことだけ。その江村都子の友達が秋田にいる。幼馴染なら江村都子のことを知らないわけがない。容姿や性格、幼馴染だからこそ知っている江村都子の癖……とか。
沢田絵里と江村都子に繋がりがなければ、諦めればいい。いや、諦めるより他ない。私は(おそらく咲子も)それを強く願っている。だが、何かが引っかかる。それは……。
「やっぱり奈良と違って寒いわ」
角館の武家屋敷通りを私たちは歩いている。
「当り前だよ。ここは東北、そして今は冬。ホテルの人も言ってたじゃないか、来週あたり雪が降るかもしれないとね」
「雪の角館もいいと思うけど、やっぱりここを歩くと桜を見たくなるわ。この辺りは四月かな?」
「満開の桜?」
「そう」
「多分そのくらいだろう」
「でも、来年は見れないでしょ?」
市長になれば桜前線を追いかける旅はできない。
「俺たちの街にも桜を見るところはたくさんあるじゃないか。そうだ、遠山の第二工場近くの公園なんてどうだ? 会長がわざわざ公園に桜を植えてくれた。あそこは今開花の時期になると場所取りで大変なんだそうだ。それに遠山の家の庭にも桜があるじゃないか」
「見飽きました、両方とも」
「贅沢だな」
「何よ、亮ちゃんのバカ」
咲子はそう言って私の手の甲をつねった。
「痛いよ」
「私、昨日の夜亮ちゃんに言ったわよね、一生許しませんと」
「一生?」
「そう」
「あれ本当だったんだ?」
「ふふふ」
咲子は笑うと体を私に寄せてきた。
「俺たちの街じゃこんなことできないな」
「できるわよ」
「会長に叱られる」
「ふふふ。それより亮ちゃん、私これ食べたいんだけど」
咲子が自分のスマホを操作する。
「食べるって、ついさっき朝食をたっぷり食べたじゃないか?」
「ついさっきって、今はもう十時よ。幼稚園ならおやつの時間」
「おやつの時間?」
「これ、私これが食べたいの。角館名物甘味噌きりたんぽ」
「はぁ」
ため息が漏れた。
遠海舞に「すみません。約束をいただきましたが、帰らなければならなくなりました」と一本詫びの電話を入れれば、今日と明日は咲子と新婚旅行の続きができる。
だがそういうわけにはいかない。私と咲子は沢田絵里を追って秋田まで来た。角館でわかったことは沢田絵里に似ている女は江村都子だと言うことだけ。その江村都子の友達が秋田にいる。幼馴染なら江村都子のことを知らないわけがない。容姿や性格、幼馴染だからこそ知っている江村都子の癖……とか。
沢田絵里と江村都子に繋がりがなければ、諦めればいい。いや、諦めるより他ない。私は(おそらく咲子も)それを強く願っている。だが、何かが引っかかる。それは……。
「やっぱり奈良と違って寒いわ」
角館の武家屋敷通りを私たちは歩いている。
「当り前だよ。ここは東北、そして今は冬。ホテルの人も言ってたじゃないか、来週あたり雪が降るかもしれないとね」
「雪の角館もいいと思うけど、やっぱりここを歩くと桜を見たくなるわ。この辺りは四月かな?」
「満開の桜?」
「そう」
「多分そのくらいだろう」
「でも、来年は見れないでしょ?」
市長になれば桜前線を追いかける旅はできない。
「俺たちの街にも桜を見るところはたくさんあるじゃないか。そうだ、遠山の第二工場近くの公園なんてどうだ? 会長がわざわざ公園に桜を植えてくれた。あそこは今開花の時期になると場所取りで大変なんだそうだ。それに遠山の家の庭にも桜があるじゃないか」
「見飽きました、両方とも」
「贅沢だな」
「何よ、亮ちゃんのバカ」
咲子はそう言って私の手の甲をつねった。
「痛いよ」
「私、昨日の夜亮ちゃんに言ったわよね、一生許しませんと」
「一生?」
「そう」
「あれ本当だったんだ?」
「ふふふ」
咲子は笑うと体を私に寄せてきた。
「俺たちの街じゃこんなことできないな」
「できるわよ」
「会長に叱られる」
「ふふふ。それより亮ちゃん、私これ食べたいんだけど」
咲子が自分のスマホを操作する。
「食べるって、ついさっき朝食をたっぷり食べたじゃないか?」
「ついさっきって、今はもう十時よ。幼稚園ならおやつの時間」
「おやつの時間?」
「これ、私これが食べたいの。角館名物甘味噌きりたんぽ」
「はぁ」
ため息が漏れた。

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