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千一夜
第52章 第七夜 本当の顔
「亮ちゃん、最近運動不足よ。市長になったら体も大事。わかっているの?」
 今私と咲子はこまちのグリーン席に座っている。駅で買った無糖の缶コーヒーを一気に飲み干して、呼吸を整えている私を見て咲子はそう言った。
「わかっているよ」
 武家屋敷通りから角館の駅まで私と咲子は歩いたのだ。タクシーに乗るという手もあったが、咲子が歩いて行こうと言った。大した距離ではないが、咲子が言うように役所を辞めてから運動に縁がなくなった。三十分も歩くと息が上がる。歳のせいにはしたくないが、もう二十代に戻ることはできない(もちろん三十代にも戻れないが)。
 風呂上りに恐る恐る体重計に乗る。確かにデジタルで表示される数字は私にサインを送っていた。「そんなに飯が美味いのか?」と。
 健康について私に残された道はただ一つ。それは適度な運動と年齢相応の食事量だ。
「わかっているようには見えないけど」
「なぁ不思議だよな」
「何が?」
「例えば今俺たちが乗っている新幹線が一分でも遅れて到着するとこんなアナウンスが車内に流れるだろ『秋田新幹線こまちにご乗車頂き誠にありがとうございます。当列車は一分遅れて秋田駅に到着いたしました。遅れましたこと誠に申し訳ございませんでした』こんな感じでさ」
「それがどうかしたの?」
「一分遅れたところで誰が怒る? 誰が困るんだ?」
「一分一秒を気にしながら働いている人もいるんじゃない? ていうか亮ちゃん、今誤魔かそうとしているでしょ、運動不足のこと」
「ばれたか。はいはい、わかりました。帰ったらジョギングでも始めるよ」
「ふふふ」
「何か可笑しいか?」
「亮ちゃんにジョギングは似合わないわ」
「だったら何をすればいいんだよ」
「私と散歩するのはどう? 手を繋いで」
「悪くないが、恥ずかしいよな」
「ふふふ」
 こんなふうに他愛のない話をすることで私と咲子は現実から目を逸らそうとしている。遠海舞に会うのが怖いわけではない。私と咲子が恐れているのは、遠海舞が何を話すのかということだ。
 遠海舞が話すことはすべて真実だ。その真実はどこで沢田絵里と重なるのか? もし重なったらどうなるのか(重なったところでどうすることもできないが)? 
 私はそれが怖い、おそらく咲子も。
 秋田新幹線こまちは十二時三十分、定刻通り秋田駅に着いた。言うまでもなく遅延を詫びる車内放送はなかった。
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