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千一夜
第52章 第七夜 本当の顔
「あの、江村都子さんが聖書のように大切にしていた本は?」
「東野圭吾の“白夜行”です」
「“白夜行”!」
驚いたのは私ではなく咲子だった。
「君は読んだことがあるのか?」
私は咲子に訊ねた。
「亮ちゃんは読んだ?」
「いや、東野圭吾の作品は何冊か読んだことがある。でも“白夜行”は読んでいない。で、咲子の感想は?」
「実は私、最後まで読んでいないのよ」
「面白くなかったのか?」
「全然、その逆。とても面白い本よ。でも読み進んでいくとだんだん苦しくなってきたの。面白いけど、もう先に進むことはできない。何だか怖くて……ページを繰ることができないと言う感じ。亮ちゃんにはそういう経験がない?」
手にした本を最後まで読み切ることが出来ない理由は人それぞれだ。
「面白いけど、先に読み進むのが辛くなった本は一冊だけある。でも、俺は最後まで読んだ」
「何という本?」
「恥ずかしいよ」
「どうして恥ずかしいのよ?」
「どうしてもだ。俺のことなんてどうでもいい。遠海さんには大切な時間をいただいている。今は江村都子さんについて集中したい」
「だったら後で教えてくださいね、亮ちゃんのその一冊」
「わかったよ」
「ふふふ」
遠海が笑った。
「すみません、お訊ねしているのに勝手におしゃべりなんかしてしまって」
私は遠海に謝った。
「構いませんよ。本当のことを言うと私も奥さんと同じなんです」
「最後まで読んでいないということですか?」
「ええ、理由も同じです。いい作品です。でも……何というか、全体的に暗い。そういう雰囲気の中で読み進むのって奥さんが言うように苦しくなっていく」
「東野圭吾さんて天才だと思うの。だってあれだけの長編なのに、あっという間に五十ページくらい読み進んでいるのよ。本を閉じるんじゃなくてもっと先が知りたくなる。招待した読者を自分の書いた世界から離さない。そういう技みたいなものを持っている作家さんだと思うわ」
咲子が遠海に続いてそう言った。
「ところで江村都子さんには特別な人がいたんでしょうか?」
「特別な人って、亮ちゃん、いつの時代の言葉よ。亮ちゃんは作家にはなれないわ」
「ふふふ」
遠海にまた笑われた。
「すみません、余計なことばかり言って」
咲子の代わりに私が謝る。
「特別な人……どうかな、噂はあったけど特別な人なんていたかな……あっ!いたかも」
「東野圭吾の“白夜行”です」
「“白夜行”!」
驚いたのは私ではなく咲子だった。
「君は読んだことがあるのか?」
私は咲子に訊ねた。
「亮ちゃんは読んだ?」
「いや、東野圭吾の作品は何冊か読んだことがある。でも“白夜行”は読んでいない。で、咲子の感想は?」
「実は私、最後まで読んでいないのよ」
「面白くなかったのか?」
「全然、その逆。とても面白い本よ。でも読み進んでいくとだんだん苦しくなってきたの。面白いけど、もう先に進むことはできない。何だか怖くて……ページを繰ることができないと言う感じ。亮ちゃんにはそういう経験がない?」
手にした本を最後まで読み切ることが出来ない理由は人それぞれだ。
「面白いけど、先に読み進むのが辛くなった本は一冊だけある。でも、俺は最後まで読んだ」
「何という本?」
「恥ずかしいよ」
「どうして恥ずかしいのよ?」
「どうしてもだ。俺のことなんてどうでもいい。遠海さんには大切な時間をいただいている。今は江村都子さんについて集中したい」
「だったら後で教えてくださいね、亮ちゃんのその一冊」
「わかったよ」
「ふふふ」
遠海が笑った。
「すみません、お訊ねしているのに勝手におしゃべりなんかしてしまって」
私は遠海に謝った。
「構いませんよ。本当のことを言うと私も奥さんと同じなんです」
「最後まで読んでいないということですか?」
「ええ、理由も同じです。いい作品です。でも……何というか、全体的に暗い。そういう雰囲気の中で読み進むのって奥さんが言うように苦しくなっていく」
「東野圭吾さんて天才だと思うの。だってあれだけの長編なのに、あっという間に五十ページくらい読み進んでいるのよ。本を閉じるんじゃなくてもっと先が知りたくなる。招待した読者を自分の書いた世界から離さない。そういう技みたいなものを持っている作家さんだと思うわ」
咲子が遠海に続いてそう言った。
「ところで江村都子さんには特別な人がいたんでしょうか?」
「特別な人って、亮ちゃん、いつの時代の言葉よ。亮ちゃんは作家にはなれないわ」
「ふふふ」
遠海にまた笑われた。
「すみません、余計なことばかり言って」
咲子の代わりに私が謝る。
「特別な人……どうかな、噂はあったけど特別な人なんていたかな……あっ!いたかも」

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