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千一夜
第52章 第七夜 本当の顔
江村都子が心を寄せた人間とはどんな人物なのだろうか。その人は誰ですか? と訊ねたいところだが、それこそ江村都子のプライバシーに係る問題だ。遠海だってそれは知っているはずだ。
「……」
遠海の言葉を待つしかない。
「すみません、少し言い過ぎました。都子ちゃんは自分から恋愛の話をするタイプじゃなかったんです。でも一度だけ都子ちゃんがこう言ったんです。『自分はバラになるんだ』と」
「バラ? バラって植物のバラのことですか?」
私は遠海にそう訊ねた。
「ええ、植物のバラのことです」
「バラと恋愛がどう繋がるのかわからないけど」
今度は咲子がそう言った。
「そこが都子ちゃんらしいところなんです。サンテグジュペリの“星の王子さま”ご存じですか?」
「子供の頃に読みました。でも難しかったな」
読んだのは私が小学五年か六年の頃だったと思う。面白いが私には難解だった。
「都子ちゃん、その作品に出てくるバラに自分を重ねたんだと思います。都子ちゃんは信じていたんです。自分と誰かに繋がっている赤い糸を。私、都子ちゃんにこう訊ねました『何色のバラ?』。そうしたら都子ちゃんは『色のないバラよ、でもね、私がバラになったら世界を自由自在に飛び回るの。だって私、待つことが苦手なのよね』そんな風に言って笑ってましたね。あんなに明るい都子ちゃんを私は初めて見ました」
「色のないバラか……」
「実は」
遠海の話にはまだ先があった。
「何でしょう?」
「関係のないことかもしれませんが、都子ちゃんが姿を消す一月前くらいから、都子ちゃん、私に頻繁に電話をくれたんです」
「……」
江村都子が姿を消したのは一年前のことだ。その頃に香坂の亭主が角館に出かけている。
「都子ちゃん、他愛のないことを私に話すんです。J〇に来たお客さんの話とか、スーパーで買い物をしたときの話とか、本当に何気ない話なんです」
「そういうことをする人じゃかなったということですね」
私は江村都子の変化が気になった。
「ええ、でも私、感じるものがあったんです」
「江村さんに?」
「そうです」
「何を感じたんですか?」
「あのときと一緒だと思いました」
「あのとき? ……とは?」
「都子ちゃんがバラの話をしたとき」
「つまり」
私は遠海の答えを聞くのが怖い。
「都子ちゃん、好きな人と巡り合えたのかなって思いました」
「……」
遠海の言葉を待つしかない。
「すみません、少し言い過ぎました。都子ちゃんは自分から恋愛の話をするタイプじゃなかったんです。でも一度だけ都子ちゃんがこう言ったんです。『自分はバラになるんだ』と」
「バラ? バラって植物のバラのことですか?」
私は遠海にそう訊ねた。
「ええ、植物のバラのことです」
「バラと恋愛がどう繋がるのかわからないけど」
今度は咲子がそう言った。
「そこが都子ちゃんらしいところなんです。サンテグジュペリの“星の王子さま”ご存じですか?」
「子供の頃に読みました。でも難しかったな」
読んだのは私が小学五年か六年の頃だったと思う。面白いが私には難解だった。
「都子ちゃん、その作品に出てくるバラに自分を重ねたんだと思います。都子ちゃんは信じていたんです。自分と誰かに繋がっている赤い糸を。私、都子ちゃんにこう訊ねました『何色のバラ?』。そうしたら都子ちゃんは『色のないバラよ、でもね、私がバラになったら世界を自由自在に飛び回るの。だって私、待つことが苦手なのよね』そんな風に言って笑ってましたね。あんなに明るい都子ちゃんを私は初めて見ました」
「色のないバラか……」
「実は」
遠海の話にはまだ先があった。
「何でしょう?」
「関係のないことかもしれませんが、都子ちゃんが姿を消す一月前くらいから、都子ちゃん、私に頻繁に電話をくれたんです」
「……」
江村都子が姿を消したのは一年前のことだ。その頃に香坂の亭主が角館に出かけている。
「都子ちゃん、他愛のないことを私に話すんです。J〇に来たお客さんの話とか、スーパーで買い物をしたときの話とか、本当に何気ない話なんです」
「そういうことをする人じゃかなったということですね」
私は江村都子の変化が気になった。
「ええ、でも私、感じるものがあったんです」
「江村さんに?」
「そうです」
「何を感じたんですか?」
「あのときと一緒だと思いました」
「あのとき? ……とは?」
「都子ちゃんがバラの話をしたとき」
「つまり」
私は遠海の答えを聞くのが怖い。
「都子ちゃん、好きな人と巡り合えたのかなって思いました」

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