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千一夜
第7章 第二夜 パヴァーヌ ③
夕方の5時、新宿駅東口で主人と待ち合わせ。主人は私を見つけると私に向かって微笑んだ。グレーのパーカーにジーンズ、シューズはいつものナイキのエアジョーダン1のシカゴカラー。バッシュを履くと、背の高い主人は東大生ではなくバスケットボールの選手になってしまう。でも主人はスポーツが苦手だ。笑顔を絶やさず主人がやってきた。
「ここから遠いの?」
私は行き先を知らない。
「十五分くらいかな」
「歩いて?」
「もちろん」
「ねぇ、そのマフラー意味あるの?」
主人は厚手のパーカーの上にマフラーを巻いていたのだ。
「意味があるから巻いている」
「健太はファッションセンスないんだね」
そんな風に言ったが、私はそういう主人が好きだ。
「センスあるだろ。こんな格好しているやつなんていないんだから」
「まじに阿保」
「俺が?」
「もちろん」
私は主人の真似をしてそう言った。
歩いて十五分、不動産屋の広告よりも主人が言う十五分はとても正確だった。
「ここ」
主人が七階建ての商業ビルを指さした。
一階が喫茶店、二階は歯科医院、三階から七階までどこかの会社が入居していた。喫茶店の名前はファールではない。
「どこに灯台があるの?」
「だからここ」
「……」
私はもう一度、一階から七階まで確認した。でもファールなんてお店はなかった。
「こっち」
主人がエントランスの脇を指した。見ると階段が地下に続いている。でもお店の看板はなし。主人と一緒に階段を降りるとドアが見えた。とてもお店には見えない。それはどこかの家のドアのようだった。
主人がドアを開ける。「いらっしゃいませ」という声はない。お店の中に入る。
「何か暗いんですけど」
「バーだからな」
「健太、お店ってバーなの? 私をバーに連れてきたんだ」
「早川、お前美少女をこんなところに連れてきちゃだめだろ」
私は声の方に目を向けた。
カウンターの中から白髪をオールバックにした老人が現れた。
「飛鳥ちゃん、よかったな。マスターは美少女が大好きなんだ」
「キモイんですけど」
「キモイか。ははは」
店のマスターはそう言って大笑いした。
「飛鳥ちゃんだっけ? コート預かるよ。美少女のコートはさぞかしいい匂いがするんだろうな」
マスターは私の着ているダッフルコートを見てそう言った。
「結構です」
私はマスターを睨んだ。
「ここから遠いの?」
私は行き先を知らない。
「十五分くらいかな」
「歩いて?」
「もちろん」
「ねぇ、そのマフラー意味あるの?」
主人は厚手のパーカーの上にマフラーを巻いていたのだ。
「意味があるから巻いている」
「健太はファッションセンスないんだね」
そんな風に言ったが、私はそういう主人が好きだ。
「センスあるだろ。こんな格好しているやつなんていないんだから」
「まじに阿保」
「俺が?」
「もちろん」
私は主人の真似をしてそう言った。
歩いて十五分、不動産屋の広告よりも主人が言う十五分はとても正確だった。
「ここ」
主人が七階建ての商業ビルを指さした。
一階が喫茶店、二階は歯科医院、三階から七階までどこかの会社が入居していた。喫茶店の名前はファールではない。
「どこに灯台があるの?」
「だからここ」
「……」
私はもう一度、一階から七階まで確認した。でもファールなんてお店はなかった。
「こっち」
主人がエントランスの脇を指した。見ると階段が地下に続いている。でもお店の看板はなし。主人と一緒に階段を降りるとドアが見えた。とてもお店には見えない。それはどこかの家のドアのようだった。
主人がドアを開ける。「いらっしゃいませ」という声はない。お店の中に入る。
「何か暗いんですけど」
「バーだからな」
「健太、お店ってバーなの? 私をバーに連れてきたんだ」
「早川、お前美少女をこんなところに連れてきちゃだめだろ」
私は声の方に目を向けた。
カウンターの中から白髪をオールバックにした老人が現れた。
「飛鳥ちゃん、よかったな。マスターは美少女が大好きなんだ」
「キモイんですけど」
「キモイか。ははは」
店のマスターはそう言って大笑いした。
「飛鳥ちゃんだっけ? コート預かるよ。美少女のコートはさぞかしいい匂いがするんだろうな」
マスターは私の着ているダッフルコートを見てそう言った。
「結構です」
私はマスターを睨んだ。