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千一夜
第7章 第二夜 パヴァーヌ ③

主人から感じるものがある。主人には欲がない。
確かに性欲はあるだろう。ただ、私に向かう性欲はとても中途半端なもので、それを性欲と言っていいのか甚だ疑問だ。
主人からは金銭欲も感じない。だから、どうしてもあれが欲しいなんていう物欲も主人には全くない。それは主人の部屋や服装なんかを一目見ればわかる。
簡素で平凡な部屋。流行を追わない主人独特のファッション(パーカーの上にマフラーを平気で巻いたりする。そんな主人が好きなのだけど)。
主人のスーツ姿を一度だけ見たが、そのスーツも友達からの借り物だった。道理でスーツ姿の主人が格好悪く見えたのは、背の高い主人に合うサイズのスーツを友達が持っていなかったからのようだ。
勉強嫌いな私は、わざわざ大学院まで進んだ主人が不思議でならなかった。主人が大学院で何を学び、何を研究しているのか私にはわからない。例えば主人が研究していることについて私が何かを質問したとしても、私はそのことを理解することはできないだろう。
そんな私でも主人について一つだけわかる。それは主人には上昇志向(学問的な分野で)がないということだ。
准教授になるとか教授になるなんて夢を私に語ったことは一度もない(それがどれだけ大変なことなのかはわからないが)。
お金持ちになることになんか興味はない。誰かを押しのけてでも上に立とうとする気概のようなものもない。だから、そういう主人が私の取引に簡単の乗るはずなんてないのだ。
しかし、一つだけある。主人がどうしても知りたいこと。それが取引のネタだ。卑怯だと言われていい。私は卑怯者なのだ。私はそれを受け止める。
姉が失踪してから、私は主人の部屋に行った。それから主人の携帯に電話するようにもなった。そして私には落ち着ける場所ができた。それはエロかんの店ファール。
エロかんのエロトークにはうんざりするが、店の雰囲気も店に流れる音楽も私の心を優しく包んだ。私と主人が店で勉強しているときは、店には誰も来なかった。そういうふうにエロかんが私と主人のためにしているのかはわからなかったが、店とビルのオーナーならそういうこともできるのかもしれない。
客が店に来なくても、家賃収入だけでエロかんは暮らしていける。
十二月二十三日夕方。私は今ファールにいる。
確かに性欲はあるだろう。ただ、私に向かう性欲はとても中途半端なもので、それを性欲と言っていいのか甚だ疑問だ。
主人からは金銭欲も感じない。だから、どうしてもあれが欲しいなんていう物欲も主人には全くない。それは主人の部屋や服装なんかを一目見ればわかる。
簡素で平凡な部屋。流行を追わない主人独特のファッション(パーカーの上にマフラーを平気で巻いたりする。そんな主人が好きなのだけど)。
主人のスーツ姿を一度だけ見たが、そのスーツも友達からの借り物だった。道理でスーツ姿の主人が格好悪く見えたのは、背の高い主人に合うサイズのスーツを友達が持っていなかったからのようだ。
勉強嫌いな私は、わざわざ大学院まで進んだ主人が不思議でならなかった。主人が大学院で何を学び、何を研究しているのか私にはわからない。例えば主人が研究していることについて私が何かを質問したとしても、私はそのことを理解することはできないだろう。
そんな私でも主人について一つだけわかる。それは主人には上昇志向(学問的な分野で)がないということだ。
准教授になるとか教授になるなんて夢を私に語ったことは一度もない(それがどれだけ大変なことなのかはわからないが)。
お金持ちになることになんか興味はない。誰かを押しのけてでも上に立とうとする気概のようなものもない。だから、そういう主人が私の取引に簡単の乗るはずなんてないのだ。
しかし、一つだけある。主人がどうしても知りたいこと。それが取引のネタだ。卑怯だと言われていい。私は卑怯者なのだ。私はそれを受け止める。
姉が失踪してから、私は主人の部屋に行った。それから主人の携帯に電話するようにもなった。そして私には落ち着ける場所ができた。それはエロかんの店ファール。
エロかんのエロトークにはうんざりするが、店の雰囲気も店に流れる音楽も私の心を優しく包んだ。私と主人が店で勉強しているときは、店には誰も来なかった。そういうふうにエロかんが私と主人のためにしているのかはわからなかったが、店とビルのオーナーならそういうこともできるのかもしれない。
客が店に来なくても、家賃収入だけでエロかんは暮らしていける。
十二月二十三日夕方。私は今ファールにいる。

