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千一夜
第7章 第二夜 パヴァーヌ ③
 結局主人がファールに来たのは六時を少し過ぎた頃だった。
 主人は友達から借りたスーツの上にサイズの小さな赤のダウンを着ていた。どうやら友達から借りたスーツは借りっぱなしで、その友達も持っているスーツは一着しかないようだ。
 灰色のスーツの上に赤のダウン。これが主人のファッションセンスなのだと思うと絶望しそうになるが、私はこういう主人が好きだ。
 主人は教材の入っているショルダーバックを肩から外した。
「ねぇ健太、まさかその赤のダウン借りものじゃないよね」
「もちろん自分で買ったものだ」
「じゃあ何で体のサイズに合っていないの?」
「そのとき、お店にはこのサイズしかなかっただよ」
「じゃあ取り寄せてもらえばいいじゃん」
「買った店は古着屋だったし、その日は寒かったんだ。試着したら暖かいだろ。もうそれを脱ぐなんて選択肢はなかったんだ」
「……」
 もう言葉が出てこない。間違いなく主人は頭がいいのだろう。でも世の中を渡り歩いていくのに何かものすごく大切なものが主人にはない。
「早川、毎回同じスーツだと生徒たちにからかわれるだろ?」
 関が主人を見てそう言った。
「心配ないですよ。今彼らは俺のスーツより受験のことで頭がいっぱいですから」
「健太。生徒たちはちゃんと健太のこと見てるよ。そしてこう思ってるはずよ。あの先生毎日同じスーツ着てるって」
 受験で頭がいっぱいでも生徒は教える先生の服はしっかり見ている。そういうところに主人は気が回らない。
「ところで大事な話って何?」
「ここから十分くらい歩くから」
 私はスマホに目を落としてそう言った。私と主人が向かう先。計画を立ててから私はそれを何度も確認した。
「十分も歩く必要なんかないだろ。ここで話せばいいことだよ」
「早川、だからお前は女にもてないんだよ。この店がいくら居心地よくても僕がいるじゃないか。そのへん気づけよ」
 関は呆れた顔をしてグラスを拭いている。
「飛鳥ちゃん、そうなのか? 先輩がいるとまずいの?」
「ばか」
 私は肩に掛けているポーチを主人に投げそうになった。
「早川、お前というやつは女心が全くわかってないな。飛鳥ちゃんごめんな、こんなばかな後輩で」
 関はそう言うと悲しい目を私に寄越した。
「さぁ、行った行った。みんなが楽しい年末だ。二人で楽しんで来い。ただしエッチなとこはダメね」
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