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千一夜
第9章 第二夜 パヴァーヌ ⑤
 ここには私と姉しかいない。だからこの笑い声は姉の笑い声だ。姉はこんな笑い方をしていただろうか? 姉はなぜ笑うのだろうか? なぜ私は姉に抱えられているのだろうか?
 なぜ私は宙を浮いていなければならなかったのか……。
 私はよやく地面に足をつけることができた。でもここは、ここは小屋の中。小屋の中には私一人だけ。一緒に入るといった姉は小屋の中にはいなかった。そして戸が閉められた。バタン、乾いた音だった。そして小屋の外から声がした。
「ごめん、あっちゃん、一人で遊んで。ふふふ」
「いやだ!出して、出してよ!」
 私は必死に叫んだ。
「出して!出して!怖いよ!」
 戸を叩きながら私は姉にそう叫んだ。後ろなんて怖くて振り向くことができない。だから私は目を瞑って力の限り戸を叩いた。
「あっちゃん、そこにお化けがいるかもしれないよ。あっちゃん、お化けと一緒の遊んでもらいなさい」
「いやだ!怖いよ!怖いからここから出して!」
 私は涙をこぼしながら姉にそう頼んだ。
「ダメダメ、もう少しそこで遊んでいなさい」
「いやだ!お願いだから出して!」
「あっちゃんのお願いなんて無視無視。ふふふ」
 姉の笑い声に吐き気がした。家に一緒に住んでいる歳の離れた女の人は、姉なんかではなく本当は鬼だったのだ。
 どのくらい時間がたったのかわからない。一分かもしれない。ひょっとしたら五分かもしれない。もっと長かったかもしれない。鬼はようやく私を解放した。姉から小屋の外に出してもらえても私は泣き続けた。
「あっちゃん、このことパパやママに言っちゃだめだよ。もちろん杉田さんにもね」
 杉田さんは通いのお手伝いさんだ。
「あっちゃん、約束は守ってね」
「……」
 姉に返事をすることなんてできなかった。
 帰り道私はずっと泣いていた。別荘に着くとお手伝いさんが「飛鳥ちゃん、どうしたの?」と言って私を抱いて頭を撫でてくれた。
「あっちゃん、下手くそだからブランコから落ちたのよ」
 姉は嘘をお手伝いさんに言った。
 もともと姉妹という感覚が私にはなかった。だからこの歳の離れた女を憎むのに時間なんてかからなかった。
 私の姉、金子葵。小学二年の私は、この女がお化けに食べられていなくなってしまえばいいのにと心の底から願った。
 
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