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第8章  啓子
細い路地を抜け駅前の大きな通りに出ると
朝の喧噪が落ち着いた駅前は 昼の準備を
始めようかと 商店はシャッターを上げ
店の前を掃除する姿 荷物を店内に運ぶ人を
見せている ふいにキャリーを掴まれ
驚いて振り返り 猛と視線を合わせた

「 おばさん、朝ご飯まだでしょう? 」

笑顔を見せて キャリーを引き駅前の
ファミレスへ向かう猛の後ろを 啓子は黙って
付いて席に座った 前に座った猛が

「 昨日、おばさんがラブホへ入って行くのを
  家の奴が見て 教えてくれて 昨日夜 泊ったのですか?」
啓子は何も言わず頷いた 猛が笑顔で

「昨日 潤に電話したら 赤ちゃんの声が聞こえて
 親父に成ったんだと言ったら 嬉しそうでしたよ 
 今日新しい部屋の契約に行くとか 言って おばさんに
 会って電話番号聞いたと言ったら 奴、急に黙ってしまって」
猛は目の前の珈琲を一口飲み カップを戻して

「 何か 有ったのですか? 」
口調は優しいが 瞳の奥の射貫くような視線に
啓子は思わず視線を反らして 俯いてしまった
その時 体格の良い男が入り口から入って来て
猛の傍に立ち

「 兄貴!! 捕まえました! 」
猛は立ち上がると 二人で店の外へと出て行き
入り口で何か話していた 少しすると猛は啓子の前に座り

「 昨日から 追っていたんですよ 仕事で 」
吐き出すように呟き また啓子の目を見て

「 何が 有ったんです? 」
強い視線に目を反らして啓子は

「 ・・・・・・・ 」
口を閉ざして 視線を外へ向けていた

「 おばさんがラブホテルへ入ったと聞いて
  最初 不倫?と思って まさかと思ってたんですよ
  仕事で昨日から この辺りで待機していたんで
  おばさんが ラブホから出て来るのを 待っていたんです
  昨日 潤に電話した時 おばさんに合ったと話した時
  潤が口籠っていたんで 何か有ったの分かって
  話して貰えませんか 」
啓子は猛に視線を戻し そこに小学生の時の猛の眼差しをみて
深い息を吐き出して 一言

「 昨日 家を出て来ただけ・・・・ 」

「 帰らない積りで? 」
前のめりで座っていた猛に聞かれ 頷くと
猛は椅子に深く体を預け 目を中空に彷徨わせ
済みませんと一言、言い店の外へと出て行った
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