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第10章 第10章 奈々
「 お昼に着いて、夕方まで部屋を借りて、
  今二人、露天風呂に入っているそうだ
  もう間もなく、部屋に戻るだろうと
  支配人が教えて呉れたよ 」

酒井が下を向いて、呟くように話してくる、結婚式で
会話をした時、大志の事を相談にカフェで会話した時見た
自信に溢れ、何人もの部下たちを叱咤激励する姿を後ろに見せていた
酒井の体が小さく見え、自信の無い姿に奈々は驚いた

「 奈々さん・・・それを全部飲んで 」
酒井が奈々の持つ、お湯割りを勧めて来た

「 少し、刺激が強い物を見る事に成るから 」
奈々は先ほどの酒井の言葉に、ショックを受けていた
大志が自分以外と、お昼に旅館の部屋を借りて
二人で露天風呂に入っている、裏切られた、
絶望感に手にした湯呑の物を飲み干した

「 このお酒は、ゆっくり味わって飲むお酒なんだ 」
酒井は空に成った湯呑を手に持ち、しみじみとした口調で話し

「 此処の山奥に咲く花を摘んで、3年漬け込む
   3年目にやっと花の香りがお酒に溶け込んで
  先代が創めたお酒で、花も余り多くないから
  この旅館の中でしか飲めないお酒なんだ 」
話しながら湯呑を覗き、空の湯呑をテーブルに置いた

壁を1枚隔てた隣の部屋から物音が聞こえ、微かな話声が
聴こえて 酒井は立ち上がり

「 来たようだな 」
呟き、部屋の隅に向かい、振り向いて

「 奈々さん 」
奈々の顔を悲しそうに見て来た
酒井の顔を見て、俯いた奈々は立ち上がり 
酒井が開けた襖の中へと入って行く

1畳程の板の間に 椅子が二つ置かれ、右の壁に埋められた
ガラスから光が部屋を明るく照らし、奈々は
勧められた椅子に座り 明るい光を送って来る
ガラスの向こうに 

・・・・目を向けた・・・

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