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Dear.M ~例えばこんな風に貴女を壊す~
第3章 黒川天音という女
ワタシがこの街に引っ越してきたのは、痴情のもつれというやつだ。

再就職先と同じく、食品関連の会社に勤めていた。
取引先は外食産業なので女性での営業は珍しいと思う。
だが、少ない女性でまだ一応20代、パッつん前髪のショートボブ、くりっとした瞳で愛想よくしていればね…だからわりと成績は優秀だった。

それにしても我ながらバカなことをしたと思う。
同じ会社に勤めながら二股をかけていたのだから。

一人は同じく営業部の若手のホープだった。
ワタシが教育係をしていたこともあり、一緒の時間を過ごすことも多かった。
可愛い顔をしていて、セックスも強かった。

「好きです、付き合ってください…」

と真っ直ぐに見つめられて言われれば断る理由なんてなかった。

一応、釘を指してこの青年と付き合い出した。

もう一人は経理課で私より二つ歳下、スチールフレームの眼鏡がよく似合う、これも将来はキャリアップしそうな人材だった。
取引先からの値引き交渉の相談等をよくしていた。
基本的にフィーリングがあった。
ワタシから誘って彼女にした。

ディナーをしながら告白すると驚いてワインを吹き出しそうになっていたのが懐かしい。
初めてベッドを共にした時は怯えるウサギのように震えていた。
でもすぐに目覚めさせてあげた。
それからはとても従順だった。
この眼鏡ちゃんの方が若手のホープ君より付き合いは半年ほど先に始まっていた。

会社内での恋愛は周りに知られると何かとめんどくさい。
そう言い含めていて、二人ともちゃんと言うことをきいてくれていたのに…。

事件は昨年のクリスマスイブに起こった。
ワタシは二人の恋人のうち、より大切な方と過ごすことにした。
だからスチール眼鏡ちゃんを選んだ。
夜景の素敵なレストランでのクリスマスディナー。
シャンパンとワインで身体を温めさせ、プレゼントはカルティエのアンクレット。
そいつで心を蕩けさせてワタシの部屋へと連れ込むコースのはずだった。
ディナーとプレゼントの出費でホテル代をケチるんじゃなかったと後に後悔もした。

あれだけ、翌日のクリスマスに相手をしてやると言っておいたのに…なにがサプライズだ…ホープ君は寒い冬の夜にガチガチと震えながらマンションの前で待っていやがった。
ご丁寧にカルティエの紙袋まで持っていられたら眼鏡ちゃんも、どういうこと?…てなるよね。
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