この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
A crescent moon
第9章 世界
困ったように笑うお母さんを見て、なんだかちょっとうれしくなる。
皺のない、10数年前のお母さん。
『だってな~お母さんのおいしいんやもん!なあ、また作り方教えてーな!』
『そんなんちょちょっと揚げたら終いやで?』
適当に返しながらも、目じりが下がっていた。
『私な~大きくなったら自分の子供のおやつには、洋菓子作ってな、お洒落さしてなー自慢のお母さんっていわれたいねん!』
『なんやそれ』
ははっと笑うお母さんはまた流しに視線を戻した。
『ほやかて夢やねんもん~』
『大層な夢やな~』
ジャー
流しで水の流れる音が聞こえる。
ゆっくり目を開けると、正弘さんのジャケットがソファにかかっているのが見えた。
キュッキュッ
蛇口をひねる音の後に、足音が聞こえてくる。
キッチンから正弘さんが顔を出した。