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ジュエリー
第1章 宝石は珊瑚に恋をする

 尖鋭な愛を抱えた女が、無雑の光を握った利き手で、大空に憧れた若者を屠殺した。



 某日、深更、ある検察庁の取調室で、一人の女と一人の男が向き合っていた。

 世界が闇に沈んだ現在、街は寝静まっている。真珠のようなつやを秘めた罪人と、目尻によわいを刻んだ検事官、彼ら二人だけが掟に逆らっているようだ。

 薄汚れたコンクリート、粗末なデスク──…暗澹とした密室は、妖しく甘い香料が、そこはかとなく存在感を漂わせている。


「いかにも、あたしは良人の耳にセメントを詰めて、眼球を杭で毀しました。賎陋な衝動を慰めるだけの肉体的機能を排除してあげたのです。泉下の客となったのは、彼の勝手です。もっとも彼の死歿は、世界が晏如に近づくための一端を担いました。少なくともあたしは殺害と引き換えに、九年の恨み悲しみから解放されました。……」


 女は、はっとする美貌の主だった。

 きめ細やかなジョーゼットを想わせる皮膚、嬋娟たる黒を湛えた双眸は、くっきりとした目許を華やがせ、ゆかしい憂いを潜ませている。淡く添えられた薄紅がどこか泣き腫らした風情を出す化粧、小さな鼻先、薄い唇、華奢な肢体は、群青のカーディガンとアイボリーのフレアスカートで装ってこそあるが、過不及なく甘美な膨らみを備えている。まばらに金糸の見え隠れする栗色の髪が、彼女の都会的な印象を、いっそう瀟洒に見せていた。
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