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ジュエリー
第1章 宝石は珊瑚に恋をする


「村田珊瑚(むらたさんご)さん。貴女は、被害者のお義母さんと不倫関係にあったようですが、真偽は?」


 女に、僅かな戦慄が表れた。
 マスカラの潤沢を載せた睫毛の刹那の顫えが、彼女の狼狽を証明する。

 だが、じきに濃艶な紅を引いた唇から、女自身がさんざっぱら匂わせていたのに通じる胸奥を示唆する吐息がこぼれた。


「良人にお義母様などありません」


 女は続ける。

 彼女は、頻りに利き手を見つめては、切なそうに愛おしそうに、その最も長い指を撫でていた。


「あたしに愛する人がいたのは事実です。良人にも、この世で最も自然に反するかたちを以て、愛する人がおりました。彼女はあたしの宝石でした。あたしは宝石の、最初で最後のつがいです」


 女の濡れた双眸が、次第に叙情的な熱を帯びてゆく。胸が迫るほどの感傷を連れたソプラノ、官能的な愛念を奏でる声は、ただただ彼女の恋人を、「宝石」と呼ぶ。



「あたしが良人と、──…宝石に出逢ったのは、九年前の夏でした」…………
 
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