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ジュエリー
第1章 宝石は珊瑚に恋をする

それでも勉学には励んだ。
第一に、他に興味の向くことがなかった。努力は本人を裏切らない。実際、たつきは報われていた。
「待ってよ、お義姉様」
たつきはお義姉様を引きとめた。
心優しい継母は、四年前までうららな女子大生だった。
机に向かっていた記憶が新しい分、受験を控えた高校生の苦労も親しく感じるのか。
たつきが私室にこもっていると、屡々、春夏はアイス、秋冬はホットのハーブティーを、こうして差し入れに来てくれる。
たつきの雑多な勉強机の隅っこで、耐熱ガラスのティーカップから、見るに温かな湯気が立っていた。なるほど、今日は六月にしては寒い。この上アイスでは、きっと有り難みも半減していた。
「こら、たつきさん。お義母さんか、名前で呼びなさいと言ってるでしょう」
「良いじゃないか、お義姉様。貴女みたいに若い女性をお義母様だなんて呼んでは、失礼だ。お義姉様は美しくて、賢い。お父様みたいなおじさんの、どこに惚れたの」
「あっ、……もう。最近の高校生って、おませね」
なだらかな眉に合わせてまっすぐ揃えられた雲鬢、その黒髪は、お義姉様のみずみずしい肢体の腰までさらさらと流れて、純粋な目許を心ばかりあどけなく明るめていた。橙と紅の濃淡が広がる皮膚、悪戯な表情につられて気味合いを変える鼻先、おっとりした声はことさら何か主張しなくても、彼女の人となりをおおむね表している。

