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拓也と菜津美
第2章 期待(菜津美)
(あっ…今日も、いる)

駅のホームの端に立っている少年を見つけ、菜津美は何故か嬉しくなった。
少年は少し前屈みで、一心にスマホを操作をしている。
彼の存在は、退屈な日常の中で菜津美が見つけた、ちょっとした刺激だった。

…☆…☆…☆…☆…☆…

菜津美は高校卒業後、ほとんど親のコネのみで、都内の広告代理店に就職した。
地方に暮らしていた菜津美は、都会で広告業界に勤めるということは、それだけで刺激に満ちた、華やかな生活がおくれるものと思い込んでいた。

しかし…現実は180度違っていた。

菜津美の安月給では、都内の駅周辺の賃貸マンションなど借りることはできず、郊外の狭いアパートが精一杯だった。
通勤はバスと電車を乗り継ぎ、一時間以上かかる。
平日は会社とアパートを往復するだけの毎日だった。
しかも、通勤の電車はかなり混雑し、仕事以上に体力を奪われる。
週末は疲れて遊びに行く気にもなれず、終日アパートでダラダラ過ごしていた。(もっとも、遊びに行く金銭的な余裕もなかったのだが…)

仕事内容はと言えば…
入社前には、広告業界ということで、もしかしたら芸能人に逢えるかも!…なんて甘い期待をしていたが、菜津美の配属されたのは総務課で、備品の数を数えるのがメインの業務だった。
毎日…毎日…毎日…
昨日も、今日も、きっと明日も変わりない退屈な毎日に嫌気がさし、こんな会社辞めてしまおうか…
などと、入社一年ちょっとで、考えだしていた。

そんな菜津美が、どこにでもいるようなあの少年を気にし出したのは、一週間ほど前だった…
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