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拓也と菜津美
第2章 期待(菜津美)
一週間ほど前のある朝…
菜津美がいつも乗るバスが他の車と接触事故を起こした。
幸い怪我人はいなかったが、バスは大幅に遅れ、結果、会社にも大遅刻。
菜津美に対し、入社以来、無遅刻・無欠勤だけが自慢の課長は、くどくどといつまでも嫌味を言い続けたのだった。

(私のせいじゃないのに…こいつ、大っ嫌い!)
(やっぱり、こんな会社辞めちゃおうか…)

それにしても…
と、ようやく課長から解放され、自分のデスクに腰掛けた菜津美は、今朝乗った電車内の事を思い出していた。

(どうしてあの子、あの電車に乗っていたんだろ?)

その朝、菜津美はバス事故のため、いつもより遅い電車に乗っていた。

(ちょっと遅くするだけで、こんなに空いてるんだ…)
(うちの会社もフレックスタイムにならないかしら…)

などと到底実現するはずもないことを考えながら、菜津美はぼんやり車内を見回していた。
視線が、反対側のドア近くに立っている少年をとらえた。

(あら!どうしてあの子が乗ってるの?)

その彼はいつも乗る時刻の電車で、何度か見たことのある少年だった。
あの有名私立高校の制服を着てるし、いつもと同じスポーツバックを持っている。
以前、その重そうなバッグを見て

(さすが、進学校の生徒ね。きっと、中には教科書や参考書がぎっしりつまってるんだろな…)

と感心して眺めていた事があるので、よく覚えている。
なにせ、あまり勉学に熱心でなかった高校時代の菜津美は、ほとんどの教科書や辞書を、学校のロッカーにしまいこんで、通学は小さなカバンひとつだったのだ。

(寝坊して乗り遅れたのかな?)

少年は一心にスマホで何か読んでいた…
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