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とある家族の裏事情
第3章 番外編 〜とある老夫婦の話し〜

私のオフィスの個室を
ノックも無しに誰かが荒々しく開けた

バタンッ

と、いう突然の音に
体がビクッと跳ねる

上司の部屋をノックも無しに開けた
無作法者の正体は部下の" 小宮 "君だ


「小宮君…
ノックぐらいしなさい……」


私が書類から目を離して彼をジロリと
見ると彼は走って来たのか

右手にドアノブを握ったまま
肩で息をしている

中学の時から大学まで陸上競技で
汗を流していたという彼は、細身ながらも
引き締まった体型に真っ黒な
髪を短く刈り上げた、見るからに
爽やかな青年だった



「主任っ!!やりましたっ!!
A社の件っ、向こうが我が社の条件を
呑む形で決まりましたっっ!!」



うちは都内でも知名度の高い建設会社だ
巷ではバブルに浮かれて
そこら中で金の絡む話しが転がっている

A社との案件は、うちに優位な条件で
進められれば莫大な利益が転がり込む

よくやった!!と、小宮君の肩を叩くと
彼の高戦績を、部署内の人間に
伝わるよう声を上げて褒め称えた






マンションのエレベーターを降りて
少し歩くと、"605 片岡 昭一"と書かれた
表札が見える

これが、俺の部屋だ

部屋のドアを開けて中に入り
リビングに向かう
リビングには誰も居らず家電類の
フィィーーーという音だけが聞こえる

リビングの電気を付けると
廊下に並ぶドアの一つが開き、
息子の太一が顔を出した


「帰ってたんだ、お帰り」


息子は感情の込もらない声で、
そういうと私の横を通り過ぎて
キッチンへ向かう

冷蔵庫を開けて飲み物を取り出しながら
「お手伝いさんの作り置き有るよ」
と、声を掛けてくる
「いい、外で済ませてきた」と
無機質に答えると「あっそ」と返す

「母さんは?」
「今日も夜勤だよ、カレンダー見なよ」

息子は、そう言い放つと
自分の部屋へ帰っていった

妻の小百合とは、もう数日
顔を合わせていない
看護師として出世街道を
突き進む彼女に「家族」という
存在は、お荷物なのかもしれない

私は私で、平日は家と会社の往復
取引先の接待やらで遅くなる日は
会社の近くのホテルに泊まるために
家に帰らない事などザラだった

おまけに休日はゴルフやら
上司と釣りやらと、精力的に
遊んでいた

こんな、家族を顧みない父に
息子が懐くハズも無い
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