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とある家族の裏事情
第3章 番外編 〜とある老夫婦の話し〜

しかし、休日の上司との釣りも
取引先とのゴルフも
仕事をしていく上で必要な根回しだ

家族を路頭に迷わせないためにも
このマンションのローンを
払い続けるためにも必要な事だと
自分に言い聞かせて風呂場へと向かった





それは、仕事が終わって
帰宅した夜の事だった

家の電話が、けたたましく鳴り響いて
私はテレビの電源を切って
電話の受話器を取った
電話の主は父で

近くに住んでいる
自分の妹の具合が良くない
おまえ、会いに来れないか?

という内容だった
私は母を小学生の時に亡くしており
まだ、幼い私を育てるために
近所に住む叔母には随分と世話になった

「都合をつけて近い内に行くよ」
と、父に言って電話を切った






渋滞に巻き込まれないようにと
早朝に家を出発して実家に向けて
車を走らせた

出発の数日前に妻に宛ててメモ帳に

「叔母の具合が
悪いから土曜日に実家に帰る
お前も来れないか?」

と書いて、冷蔵庫に貼っておいた
すると次の日に、私の文書の下に

「お父さんに宜しくお伝え下さい」

とだけ、書かれていた

家族と、まともな会話を
数年は交わしていないのだ
こんなものだろう
と、アクセルを踏み込んだ



実家に戻り叔母を見舞うと
叔母は自分の息子が帰ってきたと
いわんばかりに私の見舞いを喜んだ

叔母と言葉が、交わせるうちに
会えて良かったと実家に戻ると、
父は夕飯に寿司を
用意してくれていたようだ

ヤモメ男が1人で暮らすには
大きすぎる家のリビングの
ちゃぶ台に、寿司と
父が作ったおかずや漬物を並べる

父は台所に行くと
「これが、うまいんだ…」と
地元の酒蔵の一升瓶を持ってきた
冷酒用のグラスに酒を注ぐと
2人で小さく乾杯して、食事を始めた

父はテレビに興味が無いのか
いつも、ラジオを聞いている
ラジオが、かかる部屋で
男が2人…言葉も交わさず
食事をする…

すると父が
ポツリ…ポツリ…と、話し始めた
酒がまわってきたようだ

「昭一よぉ…お前…
地に足は着いてるか…?」

なんの事か
わからずに疑問の表情を浮かべる
お構いなしに父は話し続ける

「今はよ、あっちもこっちも
お祭りだーって、盛り上がってるよ
でもな…??

祭りの後には片付けが必要なんだ…」


そういって仏壇に飾られた
母 "マリア" の遺影に目を向けた
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