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ママ活
第5章 社畜と推し活とママ活
あの転職から、一年が経つ。
今では亜純と昼休みも誘い合う仲だ。
だが、今日は他に約束があった。午前中の業務を終えるや、最低限の私物を抱えて、りなは会議室へ急いだ。
冷めた弁当を咀嚼しながら、定期的に寄り合ってはランチ会を開くベテラン社員らに混じって、彼女らの会話に頷いていたりなは、隣席から視線を感じた。
「りなちゃん、体調でも悪い?お弁当、進んでないじゃない」
「あ……」
「りなちゃんはお上品に食べるからよ。いつもいつの間にか完食しているでしょう?でも、心配になるのも分かるわ。部長が◯◯くんだなんて。同期に彼と仲の良い人がいるのだけれど、あの人、普段から身勝手で人使いも荒いんだって」
会話に入ってきたのは、谷小路久美子(たにこうじくみこ)、三十二歳で既に多くの企画を任されてきた切れ者だ。ストイックな私生活を暗に示した筋肉質な細身の身体、その上、一つに結んだ長い黒髪と黒縁眼鏡は、この女達の輪の中でさえ浮いている。きっとりな達の上司のような社員なのだ、という先入観を当初は彼女にいだいたものだが、実際は真逆だった。十年前から「ドーリィナイトメア」に傾倒しているという彼女は、社内で亜純を見かけた日などは、興奮して夜も眠れなくなるくらいの素顔を持ち合わせていた。