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ママ活
第1章 社長が昔のママだった──case1.明咲──



「佐和子さんが気持ち良くなってくれるところを見て、感じるのが、好きなんです。ほら、僕の胸……見て下さい。息が上がっているでしょう?イきそうです、佐和子さん……」


 補正下着で乳房の感触を潰していても、鼓動は佐和子に伝わった。とろけるほど唇を重ねて、小説でもそれだけ書き散らせば読み手が食傷するだろう膨大な愛の言葉を浴びせられて、洒落た密室で、好みの男の呼び水を既に少し受けた佐和子は、明咲の暗示にかかっていた。明咲は寝台に片膝をついて、美しいパーツを飾った女の肉体に覆い被さるようにして、飽きもしないでキスを喜ぶ彼女の唇を啄みながら、あばらの浮いた白い表皮に触れていく。たわむ太ももにキスを移して、しなる背中の真上に位置する胸に吸いつく。彼女から泣きそうな声が上がる。


 佐和子は、貴方でなければ満たされない身体になりそうだ、とよく憂いだ。

 愛人契約は永遠ではない。特にママ活と呼ばれる関係は、雇われる側に就職が決まれば、大半が健全な日常に戻っていく。そして、しばらくは狂った金銭感覚に苦悩する。

 明咲も例に漏れなかった。

 佐和子のことは、明として愛していた。彼女との交際は、騎士が姫君に仕えるくらいの心持ちで続けていたが、祖母の一言を機に、ママ活から足を洗った。進学した春、翌々年の成人式を懸念した祖母は、明咲に髪を伸ばすよう促した。エクステンションでその日はしのぐと言ったところで、平成初期の生まれの人間には通用しない。
 おそらく潮時だったのだ。失恋と借金、かつて二重に痛手を負った母親は、それから二年、たまに男を連れ帰ってくることはあっても、多少は学習していたようだ。飲み屋の仕事も持ち直した。明咲も破格の金を稼ぐ必要をなくして、残りの大学生活は、同世代の少女らのように地道なアルバイトをして、髪を伸ばして化粧して、ガーリーファッションにのめり込んだ。
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