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ママ活
第6章 自分を幸せに出来るのはママ?それとも……
明咲の焦りは杞憂に終わった。
通行人らの過半数を振り返らせていた美少女は、同じくモデルと聞いても納得のいく淡麗な少年と落ち合って、駅を離れた。
体格に対してゆとりのあるスカジャンに、引き締まった脚の線に沿ったジーンズ──…その装いは、少年、つまり寿也が均等のとれた自身の肉体を自覚しているのが分かる風でもあって、素っ気ないほどクールな表情を見せたかと思えば、絵に描いたように優しくゆうに笑かけもする。
初々しい恋人達はゲームセンターのプリントシール機で写真を撮って、しばらく書店で立ち読みして、映画館へ足を向けた。
市街地は、いつの間にか混み合っていた。横断歩道などは向こう側が見えないこともあって、ともすればゆう達を見失いそうだ。
休日を謳歌している人々の群れ。彼らに混じって、明咲と佳歩も、当初の目的に並行して、雑談にも興じていた。
「映画の予定なんて、私には話さなかったくせに。だからって、蛙前くんがチケットを用意したとは思えない。男だし」
「男の人って、デートでチケット用意しないの?」
「計画性なし。直感で動く、ミスして逆ギレ。それが男の生態でしょ?」
当然の方程式を暗唱する調子の佳歩は、明咲が考えていた以上に、男に敵意があるらしい。
ただし彼女は、その容姿ゆえに嫌な思いをした覚えがあるわけでもないという。
「ロマンス映画かぁ。ペアのお客さんばかりだね。明咲はああいうのダメなタイプ?」
「苦手じゃないよ」
「じゃあ、付き合ってもらえる?チケットは私が出す。デートごっこしよっ」
恋人達に紛れ込んでいれば、ゆう達には気付かれない。
口早に補足してチケット売り場へ向かった佳歩は、その間、明咲と目を合わせなかった。
恋人繋ぎの二組が、券売機からチケットを回収して、ゆうが先頭になった時、明咲は彼女が財布のファスナーを開けきるより先に、ICカードをタッチした。
「現金出してたら、ゆうちゃん達とはぐれるよ」
「ふぇっ……え、いや、私の都合だし……ぃや、でも、……」
出てきたチケットを拾い上げて、パスケースを仕舞った片手を佳歩に伸ばす。彼女の指と指の隙間を埋めて、明咲は所定のシアターへ向かった。