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ママ活
第6章 自分を幸せに出来るのはママ?それとも……
元々興味のなかった映画は、佳歩の頭に全く入ってこなかった。
流麗に台詞を読み上げて、及第点の容姿をより際立たせたいがためのような動作を披露しきったヒロインが、相手役の男にほだされるまでの作り話のどこが、面白いのか。ヒロイン役の俳優が集客しているのかも知れないが、佳歩の隣でスクリーンを眺めていた同僚の方が、見ている値打ちを遥かに感じる。
暗闇という特殊な空間で、明咲の神秘性はいっそう強まる。化粧で装った顔は、間近だと精悍な印象も受けて、そこには上品さも繊細さも内在している。胸まである焦げ茶の髪が、憂いだ視線の影を落とした頬の白さを強めて、性的な要素を主張しない、それでいてしなやかな身体の線が、人間特有の俗っぽささえ薄めている。掠れ気味の甘いメゾを奏でる唇は、鼻筋を立てるハイライトと同じ類の偏光がツヤを添えていて、並大抵の女が袖を通しても可愛いだけで完結するAnk Rougeのセットアップは、彼女が着用しているだけで、高級感まで生まれている。
さっき明咲と組み繋いだ手が、まだ熱い。
映画の代金を返しそびれた以上、今度、菓子でもお礼しよう。大学時分、密かに女子達の色目の対象だった彼女は、佳歩が返そうとしても、見事にかわすだけだろう。
客席内の灯りがつくと、感動に浸った顔の客達が、近場の通路へ散り始めた。
佳歩も明咲と出入り口へ向かう。