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ママ活
第1章 社長が昔のママだった──case1.明咲──
* * * * * * *
広い社内。
中でも踏み入ることが躊躇われる高層階は、明咲をそこそこ息苦しくさせた。
秘書は、明咲を見るなり用も訊かず、社長室の扉を開けた。
懐かしい、甘く爽やかな香りが押し寄せた。
安らぎを振り撒くために生を受けたような女の匂いが明咲を抱いた、その時だ。
「……っ?!!」
明咲は挨拶のために口を開いて、書類の山をいくつも積んだデスクの向こうにいる人物を見るや、準備していた言葉もなくした。
爽やかで柔和な雰囲気を連れた彼女は、ただその椅子に腰かけているだけで、育ちの良さが滲み出ている。絶対的な尊敬の対象、自身の地位と権威を自覚しながら、そこには全く嫌味がなく、謙虚ささえ垣間見える。二重目蓋はあどけなすぎず形の良いアーモンド型の目許を華やがせる要素で、その鼻筋は、加工アプリを通したとしても、こうも通った形にならない。薄い唇は淡いつやを浮かべて、ふっくらとした質感を想像させる。無駄な肉付きのない顔の輪郭は言うまでもなく、しなやかな肢体はすみずみまで優美な曲線を描いている。四年前、彼女は長い黒髪だった。胸を覆う程度にまで短く変わっていたそれは、後方に差す自然光が、カラーリングで赤みを帯びたブラウンを、より明るく見せていた。