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ママ活
第1章 社長が昔のママだった──case1.明咲──
デートクラブで不特定多数の男を相手にすることなく、佐和子一人と関係を持っていた明咲は、得たものに比べて、代償は最小限で済んだ。彼女を抱いたことは数知れなくても、結局、抱かれる側の初経験は十九歳、それもすこぶる好みで、明咲を姫君のように扱う女が相手だった。
だが、宮田の命令で髪まで切って、化粧を落とせば今でも母親に似ず精悍な顔立ちというコンプレックスを有効利用していたあの一年半余りは、借金を返済して学費を工面するためだけの捨て身だった。胸まで伸ばしたゆる巻きの茶髪、女子達に人気のコスメメーカーから出ている化粧品で白い肌につやを与えて、研究を重ねたアイメイクでまるく大きな垂れ目を実現、上向きに癖付けた睫毛は濃く長く、どこまでもか弱い女のメイクを完成させたのが、今の明咲だ。佐和子との交際の反動は、それだけ明咲を転身させた。彼女が好んだ人物は、もういない。
「嘘をついていて、申し訳ありませんでした」
「全然、構わないわ。可愛かったし」
「佐和子さんは……いいえ、社長は、魅力的な女性です。お気持ちだけ、有り難くお受け取りしておきます。失礼しま──…」
「お待ちなさい」
踵を返した明咲は、佐和子の胸に倒れかかった。彼女の掴んだ片腕が、進行方向とは真逆に明咲を引き寄せたのだ。
深紅を載せた指先が、明咲の片側の頬を包んだ。その手が耳を撫でて髪をといて、首筋に滑る。
「ァッ」
佐和子の息が耳を掠めた。
明咲は、動けなくなった。腕を掴まれたままだからだ。
首筋に落ちた彼女の指が、シャツの襟近くを遊んで、明咲の上体の線をなだらかにしているジャケットの、僅かな膨らみを探り当てた。