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ママ活
第1章 社長が昔のママだった──case1.明咲──

母親の幸福は、長く続かなかった。
明咲が高校二年の秋、彼女の何十目かの恋が、何十目かの終わりを迎えた。
「あのガキ……私から何もかも奪いやがって……あんなに愛していたのに。いいえ、あの人と私は悪くない、彼だって私を騙すつもりなかったのよ。あんなに優しかった人がどこかへ行ってしまったなんて、本当に信じられないけれど、私が騙されていたはずないわ。私なら付き合えるだけで幸せだって、言い寄ってくる男達は皆、言うもの」…………
誰か助けて、助けて、と熱に浮かされた調子でぶつぶつ繰り返す母親は、テーブルに突っ伏していた。彼女の肘近くには督促状。十歳下の実業家と交際していた彼女には、彼の借り入れていた金の債務が残った。連帯保証人になっていたからだ。その金額は、飲み屋の収入では賄いきれない。
学校から戻った明咲は、その日も、失意のどん底で打ちひしがれた母親を前にしていた。
出勤時間まで僅かなはずだ。にも関わらず、顔を上げた彼女は化粧もしていない。このところ遅刻や欠勤も著しい。借金を残して失踪した恋人のことを、実家には相談出来ないという。十八年前、商社に勤めるエリートとの避妊に失敗して以来、両親は彼女に厳しく当たるようになり、明咲を孫娘として認めはしたが、いかなる理由があっても金銭的援助はしないと宣言したらしい。

