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ママ活
第1章 社長が昔のママだった──case1.明咲──

* * * * * * *

 翌々日、佐和子は指定の駅にいた。

 まだ彼女の雇用下にいた実感の持てない明咲は、ほとんどかつての習性から、彼女に片手を差し出した。エスコートを受けることに慣れた彼女は、当然の仕草でそれに応じる。


「やっぱり、痩せました?」

「えぇ?」

「元々、佐和子さん細いですけど。もっと小さくなったというか……あ、ネイルしてない」

「たまに呼吸させてるの。自爪は肌の一部、大切にしなければ」

「でも、ちゃんと磨いてますね。女子力ー」


 明咲は佐和子の指を撫でて、手入れされたそれらの隙間に、自分の指を滑り込ませる。組み繋いだ彼女の手は、やはり記憶していたより華奢だ。


 ランチをして買い物をして、美術館で絵画を観た。

 ここまでなら、仲の良い上司と部下くらいに見えるだろう。

 水彩風の花柄が覆ったワンピースを着た佐和子は、ファッションショーのランウェイを歩いていてもしっくりくるほど垢抜けていて、そんな彼女と並んで出かけるつもりで、明咲もそこそこめかし込んでいた。くすんだミントグリーンのブラウスに、アシンメトリーのオーバースカートがドレスのようなシルエットを演出している、ロング丈の白いスカート。大きなさくらんぼ柄が織り込まれている。

 四年前とはまるで別人の明咲を、佐和子は存外に褒めた。

 彼女に限ってリップサービスもしないだろう。お陰で明咲も久し振りのデート中、懐かしさだけを噛み締めて、極めて自然体でいられた。


 よく笑ってよく話す、大人の妖艶さも少女の可憐さも備える彼女は、やはり女に金銭を出してまで交際を申し込まなければいけないようには見えない。少なくともあの夕刻、明咲は、あれが愛の告白だと告げられていれば、真剣に返事を検討していた。
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