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ママ活
第3章 快楽かお手当かママか──case.3亜純──



 上司がゴマをすっておきたい相手に、亜純は確かに覚えがあった。

 ただし、ハイブランドの腕時計にシャンデリアの光をわざとらしく弾きながら、若手の腰巾着らを従えてきた彼が昔、「ドーリィナイトメア」のロゴ入りTシャツに袖を通して浮かれた団扇を振っていたのを、亜純が知りもしない態度をとると、当人も取引先の新入社員に初対面を装った。且つ、彼は器用に黒目だけを動かして、露骨に亜純を盗み見ていた。


「若い社員は、良いですね。職場が明るくなるでしょう」

「畏れ入ります。新人教育も、上手くいってばかりじゃありませんよ。しかし、次世代の者にも見聞は広めさせませんと。今宵も、御社の○○様と面識を持たせたいと、思いついた次第です」

「光栄です。峰積さんと言いましたかな?ご結婚はされていないようですが、それだけ美しければ、彼氏くらいはいるでしょう」

「いいえ」

「それはもったいないです。良い男を紹介しますよ。例えば、理想のタイプは?」

「今は仕事で、一杯なので……」

「峰積さんほどの女性なら、寿退社させてくれるヤツを選べば良いんです。そういう男は、子供が出来れば養育費に糸目もつけません。英才教育を受けさせられます。この湯取なんかは、当社でも将来有望で……そうだ、こいつか俺、どっちが好みに近いですか?」
 


 会場に入って三十分と経たない内に、亜純はひと月無休で働いたくらいには消耗した。

 上司の目的は、あの重役のご機嫌取りだ。異性間での出逢いの場に縁のなかった亜純でも、程度の低さを実感した質問も、ともかく「ドーリィナイトメア」の隠れファンが気を良くする回答を寄越して正解だっただろう。湯取という名の部下は泣きそうな顔を伏せていたが、標的は、上機嫌で上司と名刺を交換していた。
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