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ママ活
第3章 快楽かお手当かママか──case.3亜純──

一行が去って、上司も立食パーティーの料理テーブルへ向かった。遠目に見る彼は酒にも手をつけ出して、美女に話しかけている。
自分は何をしているのか。
にわかに亜純は我に返った。
悪夢から覚める間際の感覚に、似ている。
どんな不条理にも疑問の生じなかったうたかたの終局、一連の悪夢は自身の深層心理の産物だったのだと悟った時の、開放感。
だが、この悪夢は覚めない。
きらびやかな宴会場は、いつまでも非現実的なひずみを生まない。談笑する出席者達、美しくあることを義務づけられた招待客らは、亜純が意識を研ぎ澄ますほど、現実世界の住人として、各々の輪郭を強める。
いつかどこかで枕を交わした女が、ある小説を話題に挙げていた。
人は、大切なものを失うために、生かされている。
その女が亜純に紹介した小説には、そうした一節が含まれていたというが、笑えない理屈だ。
こんなつもりではなかった。
一年前まで、亜純は、長年同じ未来へ向かっていた「ドーリィナイトメア」のメンバー達と、何一つ変わらない志を共有し続けるのだと盲信していた。然るべき結果を掴み取るのだと。
ライブの常連客達は、良識的な女達が多くを占めて、生計を補うために勤務していた企業にいた男達も、とりわけ道徳的だった。
妊娠、そして結婚のためにグループを抜けた仲間に思うところはない。彼女は彼女の最善を選んだだけで、それが亜純達とは違っただけだ。
だが、もし彼女に幼馴染がいなかったとする。その男が彼女に手を出さなかったとする。
そうすれば、亜純は今頃、男達の傲慢に義理立てしたりもしていなかっただろう。
一度も想像しないではいられなかった。

