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ママ活
第3章 快楽かお手当かママか──case.3亜純──







 彼女は、古賀佐和子と名乗った。

 経営者として、今夜のパーティーに出席していたという。


 佐和子の話が事実なら、亜純は、何者かが創作した世界にでも迷い込んできたのだろう。

 爽やかで柔和な彼女の容姿は、百人に訊けば、九十七人は好みに該当すると答えるだろう。しなやかな身体の曲線は、それを覆う上品な色味の布の凹凸からも、健全な色香が横溢している。装身具は、ガーネットのピアスのみ。言葉に明瞭な輪郭を与える彼女の声は、聞き手を辟易させることなく、ただ惹きつける。


 こうも美点ばかりの人間が、幹部以上の役職に就けるのは、ドラマや映画の中が相場だ。


 そう亜純が指摘すると、佐和子が声を立てて笑った。


「天は二物を与えない、ということ?有り難う。私からすれば、……亜純さん?貴女こそ、人間と呼ぶには気後れする」


 諧謔に諧謔で返したつもりらしい佐和子は、夜道でも、亜純を頻りと褒めていた。

 どんな生き方をすればそこまで整った顔立ちになれるのか。肌に特殊加工でも施しているのか。何人恋人がいるのか。…………



 不躾に亜純を引きとめて、抜け出そうと提案してきた彼女に頷いたのは、苗字に信頼性があったからだ。古賀グループを知らない日本人は稀少だ。

 もっとも佐和子の身元など、亜純には、パーティーを抜け出す口実になれば良かった。

 主宰に挨拶を済ませれば、あとは適当に楽しむつもりでいた佐和子は、酒や料理より亜純に興味が傾いた。亜純も、目に留まった女の素性を、いちいち詮索したことはない。
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