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第4章 第四楽章　フィナーレ、アレグロ・ヴィヴァーチェ

☆

リビングに戻り、素肌にバスローブを羽織ったまま、あたしはモーツアルトをかける。
雄一郎はまだ寝ている。

モーツアルト最後のシンフォニー「交響曲第41番　ハ長調」。
第一楽章のアレグロ・ヴィヴァーチェが快活に流れ出す。
この交響曲はモーツアルトの最後のシンフォニーで、そのフィナーレの荘厳で豪快な楽想から、ギリシャ神話の創造神の名前を与えられ「ジュピター」という愛称で呼ばれている傑作。

あたしは豆を挽いて、コーヒーを煎れる。
部屋に芳香が漂い、豊かな気分になる。
窓際のソファーに座り、大きめのカップにいれたコーヒーを飲む。

暖かな太陽の光線が大きなガラス窓を通して陽だまりをつくっている。
あたしは細いメンソール煙草に火をつけ煙を吐き出した。煙は斜めに差し込んだ光をくっきりと浮かび上がらせる。
雄一郎はまだ起きてこない。

ゆったりと水が流れるように時が過ぎてゆく。

「ジュピター」が第四楽章に入った頃、玄関のチャイムが鳴った。
（え？　誰かしら・・・）

あたしはバスローブのまま玄関に向かう。
「はーい、どなたですか？」

ドアを開ける前に声をかけてみた。
「あの、管理人のものですが」

あたしは少しドアを開いた。

そこには髭を伸ばした中年男が立っていた。
彼はバスローブ姿のあたしを遠慮がちに見ると、頭を下げた。

「すみません、お休みでしたか？」
「あ、いえ・・・。大丈夫ですよ。いつもお世話になっています」

あたしは笑顔で言った。

「いえ、仕事ですから・・・。あの、水道とか異常ありませんか？」
「え？　別に・・・、何かあったんですか？」
「いえね、三軒先の方が水が出ないと言うものですから、こちらもそうかなと思って・・・」
「いえ、別に普通ですけど・・・」
「そうですか、それならいいんです。別にアレですから・・・、いや、どうも失礼しました・・・、お休みのところ・・・、どうもどうも・・・」

彼は頭を下げて帰っていった。

リビングに戻ると雄一郎が眠そうな表情でコーヒーを飲んでいた。

「あ、おはよう」
「おはよー・・・、まだ眠いや・・・。誰だったの？」
「ん？　ああ、管理人さん・・・。なんだかどこかで水道が止まったらしいの・・・」

それからあたしたちは遅めの朝食をとった。

☆