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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第12章 指切り将軍

「邪魔くせぇ場所に立ってんじゃねえ!」

 ぶつかった反動で後ろに下がったウルヒは、悪態をついて相手を見下ろした。

 ……が

「……ん?…んん?」

 見下ろしたのだが、その先に相手の顔は無い。

「お前、は……」

 槍兵師団いちの巨体であるウルヒは、恐る恐る……目の前の男を見上げていた。

押しのけようにも相手はびくとも動かない。

 食堂の出口でもたつくウルヒは、逆に相手に突き倒された。

「う…っ!!」

「──…これはいったい何の騒ぎだ」

「……!」

 床に倒れたウルヒを意に返さず、現れた男はその目を副官に向けている。

 ほろ酔いの副官は足を組んで悠々と構えていたのだが。……相手を数秒の間見つめた直後に、みるみる顔から色を失った。

「どうして貴方がここに……!!」

「貴様──槍兵師団の副官だな。この状況はなんだ」

「あ、いや、これは、その」

 椅子から跳ねるように降りた副官が、誤魔化しようのない惨状を横目に、二の句が継げず頭を下げた。

 そんな副官の頭部を睨み付け、さらに食堂の中を見渡した男が、部屋を震わすほどの大声を放つ。



「この馬鹿騒ぎを説明しろと言っている!!」



 瞬間──皆がいっせいに喋るのを止め声の主へと振り返った。



「ぁ……バ…ッ…、バヤジット・バシュ…!?」

「…っ…騎兵師団の将官か?何故…!!」

 兵士達が一様に青ざめていく中、その間をぬうように男は歩みを進める。

 そして集団の中心に、衣服を剥ぎ取られぐったりと動かないシアンとオメルを見付けた。

「……!! 呆れた連中だ……!!」

 シアンに被さる兵士を掴んで投げ飛ばす。飛ばされた兵士は席に向かって頭から突っ込み、机に並ぶ酒器のことごとくを割って台無しにした。


 男はその場にしゃがんで、シアンの顔に軽く触れる。


「生きているか?」


「‥…ッ‥‥ハァ、…‥ァ‥、ァ‥‥‥?」


「意識は、あるな…」


 彼はシアンとオメルをひとりずつ肩に乗せると、倒れた二人を連れて出口へ戻っていく。

 頭を下げて縮こまる副官の前を通り過ぎ、怒りを込めて言い捨てた。

「貴様らの処遇は追って伝える故、覚悟していろ」

 出口を塞いで転がるウルヒを横へ蹴飛ばし、突如現れたその男はシアン達を担いで去って行った──。





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