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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第12章 指切り将軍



──…


「ん……んん」

 自分を包むふわふわとした感触が心地好く、シアンはそこに頬を擦り付けた。

 布団……。寝台か。

 それに気付いてからは起きてしまうのが嫌になり、彼はしばらく目を開けないでいた。

 久しく触れていない絹織物の滑らかさ──。

 そのままの状態でとりあえず、彼は記憶を辿る事にする。自分がこうして上等な布団で眠るまでの経緯である。

「……?」

 しかしいくら思い起こそうにも合点のいく結果にはならなかった。

 シアンの記憶は酒臭い宿舎の食堂の──泣き喚くオメルと勝ち誇った副官の顔、暴力的な快楽の連続で終わっている。

 あまりに辻褄(つじつま)が合わない。

 ではあの散々な陵辱と、今のこの布団の感触の、どちらかが夢なのだろうか。

「…………。(パチッ)」

 シアンはそれなりの覚悟を持って瞼を上げた。


 寝台から顔をあげたシアンが目をキョロキョロと動かす。

 宿舎の食堂ではない。地下牢でもない。

 …見覚えがない。


「──…」

「おい」

「──っ」

「入るぞ」


 小さく空いた窓から外の様子を確認しようとしていると、突然、扉の向こうから声がかけられた。

 シアンは扉を背後に動きを止める。

「目を覚ましたと見張りの部下から連絡があった」

 見張りがいたとは初耳だ。

「ずいぶん長く寝ていたな。それで──」

「……ッ」

「顔色は……まだ、悪いか」

 部屋に入った男はいきなり、寝台に座るシアンの顎を持って顔を近付けてきた。

 その瞬間、シアンは動揺で目を見開く。

 男はそれが自分に怯えての表情であると思ったらしく、すぐに顔を離してやった。

「取って食いやしない、怯えるな」

「……!」

「見付けた時は死人のように青白かったが、ひとまず命拾いしたらしい」

 男はそう言うと寝台の向かいにある椅子に腰を下ろした。

 近衛兵の上級隊服がさまになるがっしりと恵まれた体躯。椅子に座っても背の高さが十分に伺えるその男は、凛々しい太眉をぐっと眉間に寄せて、シアンを真っ直ぐ睨んでいる。

 ……正確には睨んでいない。少なくとも本人にその自覚は無い。

 怒っているわけではないのに顔が険しくなってしまうのは、彫りの深い目元と……生まれついてのこの男の癖のせいだった。



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