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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第13章 白い花
「キレイだろ?オレの庭で見つけたんだよ」
掌の半分もない小さな花だ。
「…庭というと、王宮の庭園の事かい?」
「ううん、オレが生まれた村にあったんだ。ここに来る前は父ちゃんと一緒に死んだ人間を地面に埋めてたんだけど、そこだけは誰も近付かない…オレだけの庭だった」
「死人を埋める…。では君の父上は墓守り(はかもり)なのか」
本来キサラジャに墓はない。それが神の教えだからだ。
「そうそう、死体(あいつら)ってほんとクッサいの。しかもさ、いくら埋めても風で土が飛ばされて出てきちゃうから大変なんだよね。だから毎日水をまいて土を固めて、飛んでかないように気ぃつけてさ」
人間は死ぬと火で燃やされ太陽神の審判を受け、そこで良き者は陽の国へ、悪しき者は地獄へ運ばれる。残った骨は風にまかれ、等しく大地に還るのだ。
しかし生前に悪業を重ねた者で、神の審判を恐れて火葬を拒む者は昔からいる。そういった連中は密かに土葬で葬られてきた。
つまりそれを請けおう《墓守り》は、娼婦や処刑人と同様に存在を認められない賤人というわけだ。
「で、水撒きのときに、これが土から生えてるのを見つけたんだ。これだけじゃなくて他にも何本か固まって生えてた…な?すごいだろ?」
「……!」
オメルの話を聞きながら、シアンは瞠目して差し出された花を見つめる。
オメルが期待する驚きとは違うかもしれない。彼はこれを " 花 " と呼ぶことも、もっと華やかな花を見たことも触れたこともあった。
王宮の前の庭園に咲いているし、働いていた娼館でも、他国の客が機嫌取りに渡してきた事がある。
だが──そうか
ここキサラジャで、王都の外で花が咲いている光景は無かったかもしれない。
食物となる野菜も、穀物も、自ら育てようとする者などいないから畑すら…この国には存在しない。雨が降らず常に砂が吹き乱れる土地で、植物が育つわけないと諦めている。