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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第16章 神に捨てられた子


──


「──シアン!何処だ!戻るぞ!」

 それから脇目もふらず訓練場に戻ってきたバヤジットは、あわあわと逃げ出す民兵たちを無視してシアンの名を呼んだ。

 二人ぶんのラクダを回収し、手網を引いてあたりを探す。

「戻るぞシアン!シアン!」

「……、僕はここです」

 ウッダ村の悲惨な現状に気がめいりそうなバヤジットへ、落ち着いた声が返された。


「苦しそうですね……バシュ」


「そこにいたのか…」


「ナニか、醜いものでも見ましたか?」


「…っ」


「フ……冗談です。戻りましょうか」


 バヤジットが見付けた時、シアンは家屋の壁に背を付けて土の上に直に座っていた。

 何故そんな場所に座っているのか少し疑問に思う。

 バヤジットが歩み寄ると、彼は僅かによろけながら腰をあげた。

「…?お前こそ具合が悪いのか?日の暑さにのぼせたか?」

「いえ…ハァ、それより、面白い情報を手に入れました」

 此方へ向けた顔はほんのりと上気している。やはり様子がおかしい……。

 バヤジットは覗き込むように腰を屈める。

 すると……そんな相手に倒れかかるようにして、フラリと立ち眩んだシアンが彼の肩にすがった。


「…っ」


 掴まえた耳元で、興奮冷めやらぬ声が囁く。


「タラン侍従長は……戦を起こす気などありません。民兵達がここへ連れられる前に、そう、聞いたようです」

「……!」

「しかも……こことは別の地にも、平民を集めているのだとか。別の場所とは王都ジゼル──その中枢の、クオーレ地区。数百人の平民が、そこへ密かに招集されています」

「クオーレ地区に平民が、か?そんな話は部下からの報告に無かったが…」

「ええおそらく…、" そちら " は侍従長が本気で隠しているからでしょうね。ウッダ村(こちらがわ)とは…違って」

「つまりウッダ村も俺達の目を欺くための囮(おとり)だと…?」

「そうなり、ます」


 そこまで言ったシアンは

 膝から力を失ってバヤジットの足元に崩れた。




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