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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第17章 ハンマームにて(前)
噴出口の周りは人が多く、そこから遠のく事はシアンにとっても都合がいい…。
ザワッ...
脱衣場にいた時から、すでにシアンは痛いほどの視線をその身に浴びていたからだ。
そうなるのは当然だった。元より彼の身体は " 売り物 " であり、肌をさらす事も商売のひとつ。美しくしなやかな肢体が裸で歩けば、それだけで浴場がザワついた。
口笛の音も、控えめだが四方から聞こえてくる。
「……」
何も気付かないオメルと共に、シアンは食わぬ顔で浴場を横切る。
「待ちたまえ、君」
「…っ、何でしょうか」
だがそうやって男達の注目を無視していても、図々しい者が中にはいるようだ。
ひとりの男が座椅子から頭を起こして、前を通るシアンの右腕を掴んだ。
「その肌にその髪色──ふふ、片腕のギョルグとはまた珍しい…。君みたいな者がどうしてこの場にいるのかな?」
「…そうですね。汗を流す為でしょうか」
「汗を流すと言ってもそれは……" どちら " の意味かね。
……ふふ……ふ…────」
ずいっ!
「どっちも何もあるか。その手を離せ」
「──…ッ?誰だね君は?」
「俺か?俺は近衛隊騎兵師団将官のジフリル・バヤジットだ。いいからその手を離せ」
しかし即座に割り込んだバヤジットが、薄ら笑う男を見下ろして圧をかける。
相手が離すよりも先にシアンの腕を掴んでひっぺがした。
「さっさと歩け、シアン」
「…っ」
シアンは後ろから背中を押される。
真後ろにいるのがわかるので振り向くこともできず、シアンは言われたように歩き続けた。
…こういう裸の場で、肩書きを名乗るのは普通イヤではないのだろうか。またバヤジットを煙たがる連中が増えそうだが。
「シアン?あそこ空いてるから座るか?」
「う…うん、座ろうか」
先ほどまで遠慮なく向けられていた視線が、そそくさとシアンを避けていく。
オメルが指さした先にいた連中も、シアン達が来るとわかって逃げて行った。
前に、無邪気な砂リスを
背後に、猛るオオカミを従えて──
シアンはふと、そんな自分を想像した。