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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第18章 ハンマームにて(後)

「それだけではない……!」

「…っ?」

「 " お前が " 好色な目で見られるコトに我慢ならないのだ、俺は」

 シアンは目を丸くした。

 シアンの腕を引くのとは逆の手で、バヤジットが彼の背中を抱き寄せたからだ。

 いつかと同じようにその手に厭らしさは無いのだが、彼を離すまいとする強引さがある。

 無意識、なのか

 この男は──。

「お前を見下して良い奴などいやしない」

「──…っ」

「そう思うから、腹が立つのだろう」

「……何故」

 何故そう思う?シアンにはバヤジットの想いが理解できない。

 これまで……

 欲情する者、利用する者、軽蔑する者、憐れむ者、たくさんの人間がいた。

 バヤジットはどれにも当てはまらない。

 こんなふうに自らをかき抱く腕を、シアンは知らないのだ。


 知らない


 故に、対処の方法がわからないというもの──


「く…っ」

 シアンは身をよじってみたが、身体を捕らえる腕はビクともしなかった。

 頬に押し付けられた男の胸板から、強い脈動を受け取る。

 ぴたりと付いた褐色の肌の上で…匂いの消えた互いの汗が混ざり合った。


──ポタッ


「バシュ……腕を」

「──…」

「離して ください……!!」


 シアンは顔を歪ませる。

 バヤジットの腕に包まれると、慣れない感覚に込み上げるモノがある──こんな感情は不要だった。

 必要ない

 なら、いらない

 目的の為にあらゆる地獄を選び、ここまで来た。そんなシアンに最も不要な感情なのだ。

「手を離してください…ッ、他の者に見られては誤解を受けます!」

「…っ…、は…!?」

 厳しい声色で諭されて、バヤジットはようやく我に返った。

 彼は慌ててシアンの身体を解放した。



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