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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第18章 ハンマームにて(後)

「悪い…っ、俺は」

「……」

「暑さでのぼせたか?俺は……いったい何を……!」

「…先にバシュに触れたのは僕なので、貴方に非はありません」

 シアンの両肩を掴んで起こしてやったバヤジットは、酷く戸惑っているようで、混乱する頭に手を当てた。

 シアンは小さく咳払うと、いつもの冷静さをよそおう。

 心臓の音が五月蝿いのは暑さのせいだ。そうに……決まっている……。

「すまない…っ、俺の中の何かが暴走した。決して邪(よこしま)な感情は無い!…………筈、なのだ。すまなかった」

「貴方の誠実さは承知していますが、何も知らない他の者に見られては威厳を失いかねませんよ?」

「そ、そうだな……気を付けよう」

「ぜひそうしてください」

 背を正したバヤジットはバツが悪そうに下を向く。

 本気で反省しているのだ。

 大柄な男がそうやって俯く姿は、似合わなすぎて珍妙だった。

 そんな沈黙の後、耐えきれなくなったバヤジットが勢いよく立ち上がる。

「…どちらへ?」

「頭を冷やしに…ッ──水に、沈めてくる」

「さすがに水浴みの頻度が高すぎると思います」

「しかしっ…」

「気を鎮めるためなら……ああ、ちょうどいい、彼に手伝ってもらえば良いでしょう」

「彼?」

 シアンが顔を上げた先には、洗い場から戻るオメルの姿があった。


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