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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第18章 ハンマームにて(後)

「おいで、オメル」

「なんだ?どうした?」

 名を呼ばれて、ペタペタと石貼りの床を走ってくる。

 事情を知らないオメルは、何故かそこで仁王立ちのバヤジットを不思議そうに見上げた後、シアンに顔を向けた。

 シアンが提案する。

「せっかくだから、邸宅で匿って頂いているお礼にバシュの背中を洗って差し上げたらどうだろう」

「オレが洗うの?いいのか?バヤジットさま」

「…あ?……ああ」

 キラリと純真な目で見上げられて、バヤジットはうっと言葉を詰まらせる。

 こんな顔で尋ねられて断れる訳がなく……

「…っ…頼んだぞ、オメル」

「いいよ、まかせろ」

 逃げ出そうとしていた足を止めて、バヤジットはしぶしぶ腰を下ろした。


「オメル、将官は強めに擦られるのがお好きだそうだ。力いっぱい頼むよ」

「わかった強めにだな」

「しっかりね」

「りょーかい!」

 オメルは身体の垢を落としてもらって気分がいいのか、いつにも増して爽やかな返事で応える。

 バヤジットの広い背中に布を当て、注文通りの渾身の力で擦り始めた。

「…ッッ」

「痛かったらおしえてなバヤジットさま」

「へ…平気だ」

 皮を削ぐ気かと思う力加減だが、止めることは今のバヤジットに許されていない。

 身構えた彼の背中に大きな肩甲骨が浮き上がる。

「んなふうに背中でこぼこさせたら洗いにくいよ…ですよ?もっと力ぬいてくださいよ」

「ぐ…っ」

「腕疲れるけど頑張ろっ。……あれ、シアンはどこ行くんだ?」

「僕は水を飲んでくるよ」

 オメルとバヤジットの我慢比べが始まったところで、シアンはゆっくりと立ち上がった。

 長い間座っていたので、少し歩くとふらついてしまう。

「……フゥ」

 二人から離れた所で息を吐き出す。



 のぼせたのは……シアンのほうだ。

 頭を冷やすべきなのも、同じく、彼のほうだったのだろう。








──…




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