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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第18章 ハンマームにて(後)
その後 彼等が浴場(ハンマーム)を出る頃には、街に夕刻が近付いていた。
この季節は夜が長く、故に日没も早いのだ。
バヤジットは戻りの道中で現れた部下に呼び止められ、何か重要な用だったのだろう…どこかへ行ってしまった。
よって今、クオーレ地区の門をくぐり中に戻ったのは、シアンとオメルの二人だけだった。
「へへっ、いい匂いだな」
隣を歩くオメルは風呂上がりに塗った香油の香りに興奮している。
自分の腕をくんくんと嗅ぎながら、照れ臭そうに笑うのだった。
「シアンと同じ」
「オメルの好きな香りで良かったよ」
その香油はシアンがいつも持ち歩いているものだ。湯浴み後や、また砂漠超えの際にも、肌を乾燥させないために使っている。
「外は楽しかった?」
「あーうん、楽しかった!」
これまでクオーレ地区の中に閉じ込められていたオメル。外の街はもっと危険だと信じ込まされていた彼は、今日、それが嘘であったと理解できただろう。
「メシも美味かったな。店のおっさんは意地悪してこなかったし、つーかむしろ優しかったな」
ただ、街人がオメルに親切だったのは彼が隊服を着ているからだ。本来の身分を知ったら、こうはならなかった。
「また行けばいいよ。頼めばバヤジット将官が許可をくれるさ」
「そうな。またバヤジットさまも誘って行きたいな」
「もう将官が怖くないのかい?」
「顔はっ……怖いけど。でもバヤジットさまは優しいよ。貴族なのに、優しいよ。なんでか知らんけど」
「ふっ、今度直接聞いてみるといいさ」
並ぶ二つの影が──石畳に長く伸びる。
そのうちの、オメルの影だけが、その場で陽気に跳ねた。