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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第19章 砂塵に紛れ
──ガタッ
「──…ん?」
「どうかしましたか、バシュ」
「そこの扉から物音が…。部屋の外に誰かいるのか?」
「風の音でしょう。こんな夜に酒場に出向く者なんていませんよ」
「……?」
仲間と円卓を囲むバヤジットは人の気配を察知した。
この酒場は貸切で、自分たち以外に客はいない筈である。
“ 気のせいか? ”
「よし、ではこのあたりで話はやめておこう。長居をしてタラン側の人間に勘づかれては厄介だ」
「向こうが何か隠しているなら…こちらも隠れて動いた方が良さそうですね」
「そういうことだ。今後も各自で調査を進めてくれ」
バヤジットはひとまず会合(かいごう)を終えて席を立つ。いっせいに出ては目立ってしまうので、他の者とタイミングをずらして外へ出た。
建物の外は相変わらずの強風だった。真夜中ということもあり芯から凍える寒さが襲う。
足から顔まで防備された厚手の上着をまとったバヤジットは、出口付近の地表に目を落とし、微かに残る足跡を見る。
「……、やはり、何者かがいたのか」
ひとつの足跡が去って行った方向を確認して眉を潜めた。
「─バヤジット様?何処へ向かわれるのですか?」
「この会合を盗み聞きしていた者がいるようだ。俺はそいつを追う」
「盗み聞き!? では我々も捜索しますっ」
「いや…人数が多くては相手にバレて逃げられる。俺ひとりで行く」
バヤジットは風避けの布で口と鼻をしっかりと覆いながら、他の仲間達には帰るように指示をした。
そして自分は、足跡が完全に消え去る前にと急いで捜索に出たのだった。
───
『 だがこの場合もっとも怪しむべきは、何処に隠されたかよりも、" 何処から侵入したのか " だろう 』
バヤジットの発言は的を得ている。
…そう、クオーレ地区の壁に空いた門(あな)は、たったひとつ。
侵入経路があるとすればそこ以外に有り得ない。
──…多くの者がそう思っている。
しかしその一方で、ごく僅かな者達は、この壁にもうひとつの抜け道がある事を知っていた。