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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第19章 砂塵に紛れ
「私のことを知っているようだな?」
「当然です。ここ王宮において貴方を知らない者などおりません」
「…ほう、とてもクルバンとは思えぬ綺麗な話し方だが…なるほど、噂で聞いた通りというわけか」
「……」
暗闇に目が慣れ始めると、シアンの位置からも相手が見えるようになった。
緩くクセ付いた赤茶色の髪。綺麗に整えられた顎髭の上には薄い唇と、スラリと高い鼻。
細めた目が……シアンの品定めを始めている。
「お前はシアンであるな?」
「…っ…何故、名を?」
ただ品定めと言っても、いつもシアンが浴びている性的な視線とは別物だ。
彼の奥底を探ろうとする鋭い視線──シアンは思わず身構えた。
「私の情報網を甘く見ない事だ。お前があの騎兵師団の将官とつるんでいると聞くので念の為、お前の警戒もしておいた」
「……!!」
「もっとも…賤人であるお前の身辺をいくら調べようと、この街に来るまでの情報は得られなかった訳だが」
「そこまで警戒して頂けるとは恐れ多いですね。やはり侍従長様はバヤジット様と敵対関係にあるようで」
「敵対…?ふっ、それは誤解であるな。あの男は私の思惑を突き止めようと躍起(やっき)になっているようだが……、私の敵となるには少々、頭が、固すぎる」
柔らかく落ち着いた声でタランが話す。
バヤジット側の暗躍(あんやく)にすでに気付いているようだが、まるで相手にしていない。
「お前達はウッダ村にも出向いたそうじゃないか。…楽しかったか?何か有益な情報でも見付けたか?」
「……」
「言うがいい──…お前はあそこで何を見た」
逃げ道を模索するシアンは、この会話の真意を汲み取るまで、しばらく口を閉ざした。
「答えぬか?では、問いを変えよう」
タランはそんなシアンの反応につまらなそうな顔をしたものの、語る口を止めない。
「富める者と貧しい者…。この違いは何だと思う?」
「……?」
「ウッダ村の民兵達を見て何を思った?何故アレらが私のような者に利用されているのかがわかるか?」
目を細めたシアンを試すように、不可解な問いを投げかける。
口を開かないシアンだが、彼がうすうすその答えに気付いていると見抜いているのだ。
人間の本能と、その底辺を見てきたシアンは
タランの言わんとする事を察していた。