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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第19章 砂塵に紛れ
何故、彼等が貧しいのか
利用する者とされる者とに、何の違いがあるのか
「アレらには、欲が無いのだ」
「──…」
「食糧と寝床を与えてやれば…アレらはそれで満足する。賤人となって国から見放されるよりはマシであると信じているのだ。自分が国に生かされているだけの道具であると気付かずに…」
憐れむような言葉を使うタラン。
「まるで家畜だ」
だがこの男は、ただ蔑んでいるだけだ。
「私は欲が尽きない。このキサラジャの歴史に、我がラティーク家の繁栄を刻むまで止まるつもりは無い」
「……」
「お前はどうなのだ、シアンとやら」
「……僕、ですか?」
と、ここで、話の矛先がシアンに向いた。
シアンはさり気なく片手を背後に回す。
タランから死角となるその場所にクルチ(三日月刀)を構え──相手の出方を伺った。
「お前は他のクルバンのように貴族に騙され入隊した訳ではないらしい…。ここで、いったい何をしようとしている?」
「フっ……僕もまた、寝床を求めて貴族に身体を差し出しているだけの家畜かもしれませんよ?」
「それが事実であるならお前に用は無い。……が、この状況でそれが言えるか?」
「……」
「私は身分などどうでも良いのだ、シアンよ」
「…!」
「頭のキレる者を見て悪い気はしない。無欲な家畜共に興味は無いが、高みを目指す欲がある者には喜んで手を貸そう」
「…手を貸す?貴方が僕に、ですか?」
クルチに触れる指がピクリと反応する。
思いがけない提案だ。シアンは逆に怪しんだ。
「僕のような者に手を貸して貴方に得があるのでしょうか」
「ホンの余興だ。見返りなどいらぬ」
「貴方のその言葉…、僕が信用するとお思いですか?」
「信用など無意味だからやめておけ。利用するか、しないかだ。勿論お前が私の敵となった日はわかっているな?迷いなく排除する」
「……その言い方では、過去に排除された者が多くいそうですね」
「確かにいる。……だが数としては多くない」
.....
「──…どうする?」
「……」
シアンは思考した。
利用できるモノはすればいい。用済みになれば切り捨てる。
だがこの男──
「……、わかりました」
シアンはそっと、クルチを掴む指の力を弱めた。