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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第3章 入隊の遊戯
「ここが司令部だ。練兵所と宿舎はこの奥にある」
「立派な建物ですね」
「そうか?まぁ確かに、お前たちが住むような土壁の家とは比べるのも酷だな」
クオーレ地区に並ぶ建物はどれも巨大だった。焼き潰した緑光石に水と白砂を練り混ぜた特殊な材料を用いているおかげか。
いまシアンの前にそびえる司令部もまた、まさに権力の象徴のような佇まいをしていた。
シアンは男へ続いて中へ入る。
幾何学模様で装飾された天井の広がる空間に、人影はなかった。
「…あまり人はいませんね。いつもこのように静かですか?」
「そうでもない。今は帝国との国境(くにざかい)で揉め事が起きているせいで、近衛兵も多くがそこへ回されてる」
「揉め事?」
「知らないのか?帝国に水を運ぶカナートが壊れたんだ。向こうは勿論お怒りでな…、今すぐ修復すると言ってるが、こっちがそれを拒否したらしい」
「修復する?……勝手に直すと申し出ているのなら、好きにさせておけばいいのでは?」
「俺もそう思うんだがなー。上が考える事はわからない」
そうこう話しているうちに、彼等は目的の部屋に辿り着いた。
「将官の部屋だ」
男は急に背筋を伸ばし、ドアに下がった銅製のリングに指をかけて音を鳴らした。
「バシュ(将官)!スレマン・バシュ!いらっしゃいますか?面会を申し出る者が来ております!近衛隊への志願者です」
「通せ」
するとドアの奥からたったひと言返事がきた。
「失礼します」
「志願者はどこだ?」
その部屋は執務室のようだ。机があり、奥の椅子に男が座っていた。
裕福な生活を思わせる丸みをおびた身体が動き、椅子がきしむ。
スレマン・バシュ──" 将官 " と呼ばれるこの男は、近衛隊をまとめる指揮官のひとりだ。