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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第3章 入隊の遊戯
将官は、衛兵の背後に隠れて部屋に入ったシアンを見ると途端に顔を歪ませた。
「──まさかその小僧か?」
「は、はい…」
「何の冗談だ、その身なり…どう見ても平民であろうが」
「いや違います。いや、違わないですが…」
「?」
俯いたまま顔を上げないシアンの代わりに、連れてきた男があわあわと答える。
「これです!この者が推薦状を持っておりまして」
「…!推薦状だと?なるほど久しい、《 クルバン 》か…。それを私に見せてみろ」
いきさつを聞いた将官は、あっさりと納得して男に命じた。と言えど、しかめた表情は変わっていない。
「……ふむ、確かに」
手筒を確認し、指にはめたふたつの宝玉をカチカチと鳴らす。
少し面倒そうな態度をとった後…何食わぬ所作で手筒を裏返し、封蝋を見た。
「んん?これは…!」
そして初めて、椅子に寄りかかっていた背を離し、男は一瞬声を荒げた。
「おい、貴様」
「……」
「顔を上げろ…」
命じられるまま、シアンは顔を上げた。
前髪の隙間から片目を覗かせたシアンが、怯むことなく男を真っ直ぐ見つめ返すと……スレマン・バシュの目がランと光った。
「くくくく……おお、そうかそうか」
「……」
「稀に見る上玉であるなシアンとやら…。貴様は確かに、我が隊へ推薦されるに相応しい」
「光栄で御座います、将官」
「私は槍兵師団のバシュである。貴様が推薦を受けた騎兵師団のバシュは本日ジゼルにおらぬ故──代わりに私が入隊を許可しよう。だが──まだ証拠が足らん」
「…証拠、で御座いますか。その手筒では不足ですか?」
「貴様がここに書かれた『シアン』であるという証拠があるまい」
「……ふ、ではどうすれば良いのでしょう」
ここにきて初めて、シアンの口元が薄く笑った。
挑戦的な態度は…本来なら不敬にあたるが、将官は愉快そうに笑みを返す。
「証明してみせろ」
男は足を使って机を横に押しやった。
置かれた燭台がガタガタと揺れ、危うく倒れそうになる。
「推薦状の送り主はそれはそれは高貴な御方だ。我ら伯爵よりさらに上、公爵家の紋章が付いている。公爵様に気に入られるとは、よほどの 腕 を持つらしい。それを、見せろ」
「……」
「貴様の腕を私に見せろと言っている」
「……承知しました」