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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第20章 冷たい手枷
「久しいな、バヤジット。対帝国の前線から戻ってきたと聞いておったが…私に挨拶も無しとは無礼なものだ」
「…っ…申し訳ありません、スレマン・バシュ」
スレマンとバヤジット、ともに近衛隊の将官であるから立場は対等だ。
だが伯爵家のスレマンと男爵家のバヤジットではそもそもの生まれに差がある。そんなスレマンは《指切り将軍》であるバヤジットを見下しているひとりでもあった。
バヤジットは慌ててシアンの胸ぐらを離し、スレマンの視線から隠すように間に立った。
「スレマン・バシュこそこのような夜更けにどうして司令部に残っているのですか…!?」
「何か問題あるか?執務室で私の酒姫(サーキイ)を待っていたのだ。貴様の背後で繋がれているそいつだ」
「…!? シアンを、ですか?」
「今宵は姿を見せぬゆえ、どうしたものかと思っていたが…」
“ 酒姫?今宵は?……どういう事だっ? ”
酒姫(サーキイ)とは、建国当時、王宮にいたとされる酒運びの少年達だ。勿論、仕事はそれだけではなく──夜の相手もしたと言う。
だが今の王宮に酒姫はいない。娼婦や墓守と同じように街から追放されたからだ。
「──で?そやつが牢に繋がれているのは何故だ?貴様はそういう遊びが趣味なのか?」
「違いますっ…尋問の最中です」
「尋問?…ハッ、なんだ盗みでも働いたか」
「盗みでは……ありませんが……!」
「ほぉ?では何をしでかした」
答えに詰まるバヤジット──。
様子を見ていたシアンが、彼の背後で代わりに声をあげる。
「助けて頂けませんか、スレマン様」
「ん?」
「…ッッ…シアン!?」
驚いたバヤジットが振り向いて名を呼ぶが、飄々とした態度でスレマンに話しかける。