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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第3章 入隊の遊戯

 
「では──…念のための確認ですが」


「──…」


「此の場所に、穢れを落としても構いませんか」


「……クク」


 何かのスイッチが切り替わった。

 シアンの静かな声が、その瞳が……部屋の空気まるごとを一変させる。


「構わんさ。貴様が部屋に踏み入った時点で既に穢れている」

「……それを聞いて安心しました」

 彼が一度目を閉じて……次に開けた時、同時に浮かべた笑みもまた、先程とは様子が異なる。

 妖艶な微笑みだ。

 相手を愉しませる為に貼り付けた笑みだ。

 遊戯の始まりを告げるのに、特別な言葉は不要。一枚布でできた荷袋を肩から外すと、シアンはそれを床に落とした。


 彼が買われた腕とは、剣術でも武術でもない。この場にいる三人はそれを理解している。

 ここクオーレ地区には《 クルバン 》と言う慣習があり、彼のような青年がこれまで幾度となく連れられて来たからだ。

 シアンは頭部まで覆っていた肩布に手をかけ、ゆっくりと捨て去った。

 すると、それまで隠れていた華奢な首筋が現れる。

 首半分ほどの長さに切られた生成(きなり)色の髪は繊細で、覆う布が除かれたことでフワリと広がった。

 横に流れる前髪に隠された目元は、彼の動きに合わせて隙間から現れては、見物人に流し目を送る。

 そして白晢の肌。

 無機質にも感じる色味の無い身体をしているが、自ら衣を脱ぐ手つきは、とぐろを巻く蛇のように滑らかで生々しい。

 一気に頭から引き抜いても良いところを、彼はわざわざ時間をかけて…ひとつづつ留め具を外し、布を足元に落としていった。

 簡素な服がほぼ開け(はだけ)ると、局部のみを隠す下着の上に腰骨を覗かせ、彼は前に歩き出した。

 まだ左半身に残ったままの布地を引きずりながら、椅子に座る男の元へ近付いてゆく。


「……!?」


 頬杖を付き一部始終を見届けていた男は、この時、シアンの顔を見てさらに目を丸くした。


 赤い


 白い身体に白い布切れを纏う、その美青年の唇だけが、いつの間にやら鮮やかな赤色に変わっているのだ。



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